ニュースリリース
(2023年)
2023年11月22日
住友林業株式会社
米国で独自の10階建て木造ビル振動台実験を実施
日本の耐震基準で検証、ポストテンション耐震技術の高い耐震性を証明
住友林業株式会社(社長:光吉 敏郎、本社:東京都千代田区)はこの度、米国カリフォルニア州で10階建て木造ビルの実大振動台実験を実施しました。「NHERI TallWood Project※1」の参画企業である当社が、本プロジェクトの第2フェーズとして試験体を当社オリジナルのポストテンション仕様に改修し、日本の耐震基準で検証しました。阪神・淡路大震災級の大地震を含む複数回の揺れに耐えるなど高い耐震性が証明されました。今後、国内外の中大規模木造建築で本技術の導入を進めていきます。
※1 「NHERI TallWood Project」
2023年5月12日 リリース 「世界初、米国で10階建て木造ビルの振動台実験開始」
https://sfc.jp/information/news/pdf/2023-05-12_01.pdf
コロラド鉱山大学を中心とする米国科学財団(NSF)※2および米国森林局(USFS)の助成プロジェクト。ポストテンション耐震技術を用いた試験体を建築し、中高層木造建築の耐震性能と建築技術を検証しました。米国が実施した第1フェーズでは、米国西海岸地域の災害レベルに基づいた3段階レベルの地震波を用いて計88回加振、無損傷を確認しました。
※2 NSF(National Science Foundation)
アメリカ合衆国の科学・技術を振興する目的で1950年に設立された連邦機関で160個以上のノーベル賞を輩出するなど、多くの革新的な研究成果が生み出されている。
■実験(第2フェーズ)の概要
第1フェーズでは米国西海岸地域の災害レベルに基づいた3段階レベルの地震波で耐震性を検証しました。第2フェーズでは当社独自の実験を7月28日~8月10日の期間で実施しました。「NHERI TallWood Project」の試験体建物を日本の耐震基準の地震力に耐え得る性能をもつ当社オリジナルのポストテンション仕様に改修しました。米国研究者と京都大学生存圏研究所の五十田(いそだ)研究室の協力のもと計画を進めました。日本国内で実際に発生した地震波や、建築基準法で性能確認が求められる地震波で耐震性能を検証し、ポストテンション耐震技術※3の レジリエンス性能を実証しました。
※3 ポストテンション耐震技術
耐力部材に通した高強度の鋼棒やワイヤーロープに引張力を与えることで部材間の固定度を高める技術
1) 検証内容・条件
➣ 高層建築物建設時、日本の建築基準法で要求される地震動相当の波(告示波・観測波[稀・極稀地震相当レベル])
➣ 南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動※4
➣ 阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震):JMA Kobe波(1995年に神戸海洋気象台が観測した波)
➣ 第1フェーズで使用した米国基準最大想定地震:MCEレベル調整波(シアトルでの再現期間が2475年の大地震)
上記、大地震での地震波等を用いて試験体を計51回加振しました。
※4 南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動
超高層建築物等における長周期地震動の対策としてまとめられた国土交通省の技術的助言(平成28年6月24日 国住指第 1111 号)に基づき作成された設計用長周期地震動:関東地方1区域(KA1)
2) 検証結果
➣ 阪神・淡路大震災級の大地震を含む複数回の揺れに耐え、安定性を保つことができた。
➣ 各加振終了時、構造躯体は復元力で直立状態に自ら戻った。(最大層間変形角※5で1/40 rad到達)
➣ 全加振終了時、木材を含む構造躯体は損傷しなかった。
➣ 加振による振動エネルギーの多くをダンパーで吸収することができた。
※5 層間変形角
地震や強風を受けて、各階に生じる水平方向の変形(δ)と階高(h)から求める角度θ(θ=δ/h)で、単位はrad(ラジアン)を用いる。建築基準法では、極めて希に(数百年に一度程度)発生する地震力に対して、建物は損傷を受けても人命が損なわれるような壊れ方をしないことと定められている。通例その時の層間変形角の限度(安全限界層間変形角)は1/75radとされているが、これを超える場合は、傾きによって増加する転倒力を考慮しても倒壊しないことを確かめる必要がある。本実験では、層間変形角が1/75radを超え最大1/40radに到達したが、各加振終了時に構造躯体は復元力で直立状態に自ら戻りポストテンション耐震技術の高いレジリエンス性を実証できた。
3) 具体的な改修内容
構造形式 : ポストテンション耐震技術を用いた木造軸組工法
階 数 : 10階建て
平 面 : 10.5m×10.6m
高 さ : 34.14m
階 高 : [1F] 3.96m、[その他] 3.35m
使用材料 : [柱梁] LVL※6、[耐力壁] CLT※7、MPP※8
耐力壁は添え柱と壁(CLTまたはMPP)で構成。各階で右図に示す通りです。当社オリジナルダンパーを採用し、ポストテンション(PT)鋼棒の構成変更や壁ポストテンション力を増大するなどの改修をしました。
※6 LVL(Laminated Veneer Lumber)
丸太を桂剥きにした単板を、繊維方向を平行にして積層・接着した木質材料
※7 CLT(Cross Laminated Timber)
ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質材料
※8 MPP(Mass Plywood Panel)
合板を二次接着により積層した大断面木質材料。米国で開発された木質材料で日本にはまだ規格がない材料
■今後のビジョン
当社は中大規模木造建築の技術のひとつとして、ポストテンション耐震技術を2014年から研究してきました。2015年に当社筑波研究所の耐火検証棟に、2019年竣工の同研究所の新研究棟でも採用しました。他の建築実例として2022年6月竣工の上智大学四谷キャンパス15号館にも採用しています。
米国では2028年を目途にIBC(米国建築規準)にポストテンション耐震技術を追加できるように設計法が検討されています。今回得た知見をもとに本技術を中大規模木造建築のソリューションの一つとして国内外で展開していきます。
住友林業グループは森林経営から木材建材の製造・流通、戸建住宅・中大規模木造建築の請負や不動産開発、木質バイオマス発電まで「木」を軸とした事業をグローバルに展開しています。2030年までの長期ビジョン「Mission TREEING 2030」では住友林業のバリューチェーン「ウッドサイクル」を回すことで、森林のCO2吸収量を増やし、木造建築の普及で炭素を長期にわたり固定し、自社のみならず社会全体の脱炭素に貢献することを目指しています。今後も森と木の価値を最大限に活かす研究開発を推進していきます。
以上
≪リリースに関するお問い合わせ先≫
住友林業株式会社
コーポレート・コミュニケーション部 佐藤
TEL:03-3214-2270
≪ポストテンション耐震技術に関するお問い合わせ先≫
住友林業株式会社
海外住宅・建築・不動産事業本部 建築事業部
TEL: 03-3214-2535