モニタリング活動

■まなびの森鳥獣生息調査

富士山「まなびの森」では、自然林回復活動を実施して以来、その回復状況をモニタリングするため、植生及び鳥獣生息の調査を行っています。

■2011年度調査結果

1.調査結果

【繁殖期1回目・2011年5月7日(土)】
調査地に到着するまでは小雨が降っていたが調査の開始と同時に雨は上り、以降は曇りの天気となる。集合場所に西臼塚駐車場ではアカハラ、コルリ、ミソサザイなどのさえずりが聞こえてくるが、全体的には鳥の数は少ない印象を受けた。そんな中で今回この調査地で初記録となるサンショウクイが1羽観察された。昨年5月の調査では過去最多の6羽を記録したセンダイムシクイが今回は5羽観察され、今後の記録が注目される。反対に過去にはこの調査地の初夏の調査では最優先種であったウグイスが数を減らし9羽という淋しい記録となった。気候の影響か繁殖活動も低調で、テリトリーマッピングの結果は6種12箇所といつになく少ない結果となった。外来種のソウシチョウ2羽、ガビチョウ2羽と昨年よりわずかに減少した。記録された野鳥の総数は28種106羽、テリトリーは6種12箇所であった。哺乳類はモグラ塚、ニホンリスの姿、ニホンジカの糞や色痕が観察された。

【繁殖期2回目・2011年6月5日(日)】
集合場所に向かう登山道に設置された温度計は7℃と表示され肌寒く感じるほど。それでも快晴の天候に恵まれたのだが、調査開始直後から鳥の気配が少ない。例年5月に数が多く6月にも何羽かが記録されたコルリの声がまったく聞こえなかった。5月に続いてウグイスのさえずりも少なく8羽しか記録されなかった。昨年9羽という最多記録を出したキビタキは今回も8羽と数が多く、テリトリーも6箇所と昨年より2箇所増やした。外来種のソウシチョウは7羽、ガビチョウが1羽。記録された野鳥の総数は27種93羽、テリトリーは9種26箇所あった。哺乳類ではモグラのモグラ塚とニホンジカの糞や食痕が記録された。

【越冬期1回目・2012年1月4日(水)】
晴天で地表には雪もなく歩きやすいが気温が低くて寒い。例年10月頃になると調査地辺りに姿を現す冬鳥のツグミだが今年は渡来が遅れ、今回の調査でやっと1羽を確認することが出来た。他には冬鳥はカシラダカとアトリが観察された。記録された野鳥の総数は21種144羽となった。哺乳類はモグラのモグラ塚とニホンジカの糞や食痕が記録された。

【越冬期2回目・2012年2月11日(土)】
麓では曇りの天気だったが調査地に近付くと間もなくみぞれが降り始める。調査を開始してからそれも曇り空にもどった。調査地全域でアトリの数が多く数10羽から100羽ほどの群れが飛び交っていたが、その他の鳥の姿は少なかった。記録された野鳥の総数は17種290羽となった。哺乳類はモグラのモグラ塚とタヌキの溜め糞が記録され、ニホンジカの糞や足跡は調査コース上全域で確認された。

2.野鳥の生息状況

2000年5月から今年で12年目となったこの調査で生息状況に特徴のあった種について記す。


グラフ.1
ウグイス〔グラフ.1〕は、調査開始当初の地表の見える草原地帯がススキや低灌木の繁る彼らの好む環境に変化してきたことにより生息数を増やしてきた。しかし、彼らが営巣地として巣材として利用するササが近年のシカの食害により広範囲にわたって減少していることから昨年頃からウグイスの生息数の減少が懸念されていた。
今年度の繁殖期の調査では過去の調査と比較して明らかにウグイスのさえずりが少なく、テリトリー調査からも5月-3箇所、6月-5箇所と明らかに繁殖状況が低下していることが分かる。
グラフ.2
富士山南麓で近年目立って生息数を増やしているキビタキ〔グラフ.2〕は、この調査地でもじわじわとその数を増やしており、2010年6月の調査では過去最高の9羽を記録し、今年6月にも8羽と数の多さが際立っている。さらに今年はテリトリー数が5月-1ヶ所、6月には6箇所と、過去の最優先種ウグイスの5箇所を上回った。今後この状況が安定していくのか、またさらに変化していくのかを注目していきたい。
グラフ.3
夏鳥として渡来するコルリ〔グラフ.3〕は5月の記録が際立って多く、この地域では繁殖期の早い種と考えられている。今年度は5月に7羽と多かったが6月には鳴き声は聞かれなかった。ブナの自然林と草原地帯の境あたりにテリトリーが多く見られ、このような環境が多いこの地域での今後の渡来数の増加が期待される。
グラフ.4
草原を主な生息地としているモズ〔グラフ.4〕は調査当初は広大な草原地帯のあったこの地域で相応の生息数を保っていたが、草原の森林化に伴い観察記録も少なくなってきた。昨年は記録が無かったが、今年度は5月と6月に1羽づつ観察された。
グラフ.5
冬鳥として渡来するベニマシコ〔グラフ.5〕は、繁殖地・越冬地共に灌木林と草原が隣接する環境を好む種であるが、このベニマシコもモズと同様に草原の森林化に伴って渡来数が減ってきた。今年度は2月に1羽のみと過去最少の記録となった。
グラフ.6
ソウシチョウとガビチョウ〔グラフ.6〕は外来種で、グラフは調査地での年間記録の合計を表している。どちらも茂みの中に生息する修正の為に総数を正確に把握することは困難であるが、最近の傾向としては一時激増したソウシチョウが減りガビチョウが広範囲にわたって生息域を広げているという印象がある。調査結果は昨年とそれほど変わらないが、ササ藪を好むソウシチョウはウグイス同様にササの減少に伴って生息数も減少が傾向に向かうことが予想される。ガビチョウは潅木が生い茂った環境を好み、このような場所は調査地には多く存在するため、その他の地域の現状と照らし合わせると今後は生息数を増やしていくように思われる。いずれにしても今後の調査結果に注目していきたい。 グラフ.7
グラフ.8
12年間に記録した野鳥の総個体数〔グラフ.7〕、記録した野鳥の種数〔グラフ.8〕の変化を見ると、今年度の2月の調査で総個体数が大きく増えたのは冬鳥のアトリの渡来数が多かった(230羽)からで、これを除くと今年度は個体数・種数ともに過去の記録よりも少ない。
グラフ.9
まなびの森のテリトリーを作った鳥の種数とテリトリーの数〔グラフ.9〕を見ると、2002年から2005年にかけてピークが見られるが、これは台風被害にあった人工林が伐採され荒地となった場所に草原の環境が整った時期と一致する。この時期のまなびの森では森林性の鳥と草原性の鳥の両方にとって繁殖地としての環境が整っていたことを意味する。
グラフ.10
草原性の野鳥のテリトリー数〔グラフ.10〕を見ると2006年以降の草原性鳥類の繁殖活動の減少がよく分かる。草原だった場所に植樹や自然発生により根付いた樹木が生長し、何年かの後には樹高10mクラスの落葉樹を主体とした高木林になっていくものと思われるが、このような環境の変化の中でこの地を新たな繁殖地とする種も現れるはずで、現時点でもコルリ、キビタキ、センダイムシクイなどの森林性の野鳥は生息数・テリトリー数を増やしている。
今年度の調査では繁殖期と越冬期の記録を合わせると44種の野鳥と2種の外来種が記録された。

3.哺乳類の観察状況

【モグラ】(種不明)
4回の調査全てでモグラ塚やトンネルが観察された。(写真はモグラ塚)

【ニホンリス】
5月の調査で姿が確認された。周辺地域でも時折姿が見られることから普通に生息していると思われるが、出現頻度は低いため生息密度はそれほど高くないように思われる。

【タヌキ】
夜行性が強いため日中にその姿を見る機会は少ないが、今年度は2月の調査で特徴のある溜め糞が観察された。(写真は溜め糞)

【ニホンジカ】
年間を通じて調査地に生息しているが、夏には標高の高いところへ移動する個体も多いらしく目にする糞の量も少なくなるが、冬季の調査ではほぼ全域で糞や足跡が記録されている。すべての調査で記録がある。(写真は鹿によって倒され樹皮を食べられた小灌木)


※昨年まで毎年記録のあったノウサギが今年度の調査では一件も記録されなかった。かつてノウサギの糞をよく見つけた草原環境は年毎に明らかに減少していて、彼らが住みやすい場所がなくなってきていることを物語っている。

モニタリング活動一覧へ戻る

ページの先頭へ戻る