モニタリング活動
■富士山まなびの森 2015年度鳥獣生息調査報告書
1.野鳥の生息状況(表-No5)
調査を開始した2000年から今年で16年が経った。その間にこの森で記録された鳥類は75種(その他に外来種4種)を数える。調査地は調査開始当時は人工林の倒れた樹木を撤去して土の見える環境の多かったものが、その後草原となり現在は樹木が成長して森林へと姿を変えていく過程にある。環境の変化に伴い生息する鳥類にも変化が起きるため、生息状況の変化に特徴のある種について記してみる。
調査開始当初は広範囲に亘ってササの茂る環境があったが、その後シカの食害によりその面積は激減した。ササ藪を主な生息地とするウグイス〔グラフ.1〕はその影響を最も受けた種と言える。2011年以降の生息数とテリトリー数は減少した状態で横ばい状態となっている。テリトリー数は5月-6箇所,6月-3箇所。
キビタキ〔グラフ.2〕は代表的な夏鳥の一種ではあるがかつて富士山南麓ではごく限られた地域でしか姿を見る事ができなかった。それが近年では今まで記録のなかった地域でも毎年観察されるようになり、まなびの森でも年ごとに記録を増やしている。最近では5月より6月の方が数が多かったが、今年はどちらも多かった。テリトリー数は5月に5箇所、6月に4箇所。
調査を開始した2,000年から2008年にかけて5月の生息数をじわじわと増やしてきたコルリ〔グラフ.3〕だが、これは調査地の草原環境が充実していた時期と一致する。山地の森に生息する鳥だがササ藪などの茂みを好むことから、ウグイス同様ササの減少がその生息数に影響を与えている可能性も考えられる。
ウグイスやコルリのように茂みを好む野鳥もあれば、視界の効く広々とした環境を好む種もある。調査当初から環境の変化とともにその動向を注目していたのがモズ〔グラフ.4〕である。小高い枝にとまり地上を見下ろしては地表の虫などを捕食する習性から、繁殖期には土の見える草原や畑地などで多くが生活する。そのため過去の調査記録を見ると、地表に草が生えて土の見えなくなってきた2004年以降に生息数が減少し、さらにはその草原に生えた樹木が成長して森林へと移り変わってきたここ3年ほどは2014年の1羽の記録しかなくなってしまった。モズと並んで草原の鳥の代表とも言えるホオジロも同様に調査での記録が減少している。
北海道などの北国で繁殖し冬鳥として渡来するベニマシコ〔グラフ.5〕も生息数の減少した種の代表と言える。繁殖期・越冬期ともに低灌木がまばらに生えた草原を好む習性から、森林化の進んだまなびの森は彼らにとっては住みやすい場所ではなくなってきた。昨年に続いて冬季に1羽の記録があったが、いずれはここから姿を消していく種であることが想像できる。
外来種のソウシチョウとガビチョウ〔グラフ.6〕は、2001年にソウシチョウが、2002年にガビチョウが始めて観察され、2006年から2012年にかけて生息数を増やしてきた両種であるが、ここ三年ほどは観察記録が減っている。
この2種と同様に外来種とされているコジュケイは調査開始当初は一年おきに観察されていたのだがここ5年間記録がない。もともと森林を好む種なので数の減少は予想していなかった。
16年間に記録した野鳥の年度ごとの総個体数〔グラフ.7〕はゆるやかに減少している状態にある。調査地に草原の多かった時代から森林化が進んだ結果草原性の鳥が減少し、代わりに森林性の鳥が増えた。1996年のような大きな天災や人為的な開発行為が行われない限り今後もこの数字に若干の増減はあっても大きな変化は起こらないと思われる。
記録した野鳥の種数〔グラフ.8〕に見られるように数を増やした。今まで周囲の森では少数ながら観察されていたオオルリとキバシリが今年新たに記録に加わったこともその理由だと思う。マミジロも5年ぶりに記録された。過去には多くはないが毎年複数の記録があったアオジがここ2年間観察されていない。少数だが毎年記録されていたジョウビタキは3年間記録がなく、ヤブサメは8年間記録が途絶えている。富士山では2015年6月に五合目で記録のあったジュウイチだが、ここでは11年間記録が途絶えている。
まなびの森にテリトリーを持った鳥の種数とテリトリーの数〔グラフ.9〕では2002年から2005年にかけてピークが見られるが、これ以降は減少傾向にある。草原性の野鳥のテリトリー数〔グラフ。10〕を見ても分かる通り、草原の環境が減少し森林環境のみになってしまったことから繁殖する鳥の種数も限られてしまったものと思われる。
今年度の調査では繁殖期と越冬期の記録を合わせると47種の野鳥と2種の外来種が記録された。
2.哺乳類の観察状況(表-No6)
【モグラ】(種不明)
1月と2月の調査でモグラ塚が観察された。
【ノウサギ】
2004年までは夏冬通じて糞や足跡が観察されていたのだがそれ以降観察例が減少している。特徴のある痕跡を残すので生息の確認はしやすいのだが、それが少ないという事は生息数も以前よりはかなり減少しているように感じる。2月の調査で足跡が観察された。
【ニホンリス】
ニホンリスは昼行性の動物なので観察しやすいのだがもともと生息数が少ないので毎年観察されるわけではない。6月に姿が観察された。
【キツネ】
今までもあまり記録の多い種ではなかったが、今年度は5月、1月、2月に糞が観察された。
【ニホンテン】
夜行性でなかなか出会う機会は少ないのだが5月と1月に姿と糞が観察された。
【ニホンジカ】
年間を通じて調査地に生息している。ほぼ全域で糞や足跡が記録されているが、夏には標高の高いところへ移動する個体も多いらしく痕跡は減少する。冬季は姿を見る機会も多い。