モニタリング活動
■まなびの森鳥獣生息調査
富士山「まなびの森」では、自然林回復活動を実施して以来、その回復状況をモニタリングするため、植生及び鳥獣生息の調査を行っています。
■2016年度調査結果
1.野鳥の生息状況
調査を開始した2000年から今年で17年が経った。その間にこの森で記録された鳥類は75種(その他に外来種4種)を数える。調査開始当時の調査地は人工林の倒れた樹木を撤去して土の見える環境が多かったものが、その後草原となり現在は樹木が成長して森林へと姿を変えていく過程にある。環境の変化に伴い生息する鳥類にも変化が起きるため、まず生息状況の変化に特徴のある種について記してみる。
草原の鳥であるキジ〔グラフ.1〕は調査開始当初は毎年繁殖期に複数の鳴き声が観察され2011年まではテリトリーも記録されたが、その後は草原の森林化に伴い生息に適した環境が減少したため観察例が減少している。雑食性ながらも地面を歩きながら捕食するため、背丈が低くて実のなる植物が草原環境の減少に伴い少なくなってきたことが彼らの生息数減少の一番の原因と考えられる。
夏鳥としては渡来の遅いカッコウやホトトギス〔グラフ.2,3〕は調査地でも5月中旬以降にならないとその姿を見ることはまれであるため、6月の記録をグラフで表した。両種とも森林だけでなく草原にも採餌場所を求める習性があるためか、草原環境が減少した2010年以降は観察例の減少とともにテリトリーも消滅している。さらには托卵相手となるカッコウに対してのモズや、ホトトギスに対してのウグイスの減少も生息数減少の大きな原因と考えられる。
調査当初から環境の変化とともにその動向を注目していたのがモズ〔グラフ.4〕である。枝の茂った低灌木に営巣し、林縁や草原の中の小高い枝に止まり地上を見下ろしては地表の昆虫などを捕食する習性から、繁殖期・越冬期ともに土の見える草原や畑地などで多くが生息する。そのため過去の調査記録を見ると、地表に草が生えて土の見えなくなってきた2004年以降にテリトリーも消滅し生息数も減少している。
繁殖期には富士山五合目辺りの森林限界で営巣するカヤクグリ〔グラフ.5〕は越冬期には標高の低い地域に移動する。朝霧高原などでは冬になると草原を見下ろす林縁の枯れ枝で特徴のある声を聞く機会が多いが、まなびの森でも2006年まではそのような姿が見られた。それが、草原が森林に姿を変え始めた2007年以降その姿が見えなくなったことがグラフからもよく分かる。
コルリ〔グラフ.6〕は、年ごとに若干の増減はあるものの生息数・テリトリー数ともに安定している。観察地点を記録したマッピングから生息場所が1996年の台風以降も環境変化のない自然林に限られていた事が理由と思われる。
調査を開始した2000年当時は調査地の中の自然林にはササの茂る環境が点在していた。台風被害を受けた植林地の倒木が撤去されてできた広範囲な裸地は草原地帯となりウグイス〔グラフ.7〕の生息に適した環境が増えたことから2003年から2010年にかけては生息数・テリトリー数ともにピークを迎える。その後シカの食害により富士山全域のササ藪が激減し、森林化によって草原環境が減少したことから2011年以降の生息数とテリトリー数は減少し、その後は横ばい状態となっている。
環境の変化により減少した草原性の鳥とは逆に森林性の鳥の中には生息数を増やしている種もある。その代表がキビタキ〔グラフ.8〕で、2006年以降じわじわと生息数・テリトリーともに増えている。ブナやカエデなどの高木のある広々とした林が中心で、マッピングによると植林地帯や草原地帯に隣接した自然林に多く生息していることが特徴的である。キビタキの渡来数増は富士山に限らず全国的な現象で、これは繁殖地のみならず越冬地の環境も大きく影響しているものと思われる。
最近の調査で特に観察する機会の多い種がヤマガラ〔グラフ.9〕で、2014年からの3年間は繁殖期・越冬期とも過去の記録を上回っている。もともと森林性の強い種ではあるが、調査初期のマッピングと比較するとかつての草原地帯での記録が明らかに増えている事が分かった。草原の森林化によって生息数を増やした野鳥の第一例と考えられる。今後は同様な状況が近縁種のカラ類に現れるか注目していきたい。
野鳥の中でも多様な環境の中で観察例の多いホオジロ〔グラフ.10〕だが、調査初期からの記録を比較するとその生息環境は草原にかなり依存していることが分かった。近年は明らかに観察例も減少し、テリトリーも2015年以降確認されていない。
留鳥のホオジロと同様に冬鳥のベニマシコ〔グラフ.11〕も草原環境を好む種である。繁殖地・越冬地のいずれも草原の中の灌木や草原に面した林縁でその姿を見る機会が多い。そのため草原が森林化し始めたころから予想されていたが、キジ,モズ,ホオジロなどと同じくじわじわと観察例が減少し、最近の5年間で2羽の記録しかなくなってしまった。
外来種のソウシチョウとガビチョウ〔グラフ.12〕は、2001年にソウシチョウが、2002年にガビチョウが始めて観察され、2006年から2012年にかけて生息数を増やしてきた。2013年以降観察例が減少したが、今年度はガビチョウが増えた印象がある。
記録した野鳥の種数〔グラフ.13〕を見ると年度合計では2012年から2014年が43種と最も減少している。しかし、2015年度から今年度にかけてオオルリやキバシリの新たな追加やジュウイチ、マミジロの復活により47種と若干数を取り戻した。
17年間に記録した野鳥の年度ごとの総個体数〔グラフ.14〕は、調査地に草原の多かった時代から森林化が進んだ結果草原性の鳥が減少し、代わりに森林性の鳥が増えた結果ゆるやかな減少傾向にある。
まなびの森にテリトリーを持った鳥の種数とテリトリーの数〔グラフ.15〕では2002年から2005年にかけてピークが見られるが、これ以降は減少傾向にある。
今年度の調査では繁殖期と越冬期の記録を合わせると47種の野鳥と2種の外来種が記録された。
2.哺乳類の観察状況
【モグラ】(種不明)
5月,1月,2月の調査でモグラ塚が観察された。
【ニホンリス】
ニホンリスは昼行性の動物なので観察しやすいが、観察例はそう多くない。1月,2月の調査で姿が観察された。
【ニホンテン】
過去には日中姿が見られたこともあったが夜行性でなかなか出会う機会は少ない。特徴のある直径1㎝ほどのフンが5月に観察された。
【ニホンジカ】
年間を通じて調査地に生息している。ほぼ全域で糞や足跡が記録されているが、有害鳥獣駆除の影響か近年は痕跡が減少しているように感じる。