モニタリング活動

植生調査 2012年度報告書

1.目的

富士山南麓では1996年(平成8年)9月の台風17号により大規模な風倒被害が発生し、壮齢ヒノキ林を中心に約90,000m3が被害を受けた。富士山「まなびの森」事業計画では、この風倒被害跡地に広葉樹を中心とした在来樹種を植栽することによって、早期に自然林を復元することを目指している。
本調査は、「まなびの森」区域内での台風による風倒跡地の森林の回復および変化について、モニタリングをおこない、自然林の早期再生のための管理・施業方法に関する情報を得ようとするものである。
2012年度の調査では、風倒被害後に植栽を行わなかった未植栽地の固定調査区2ケ所と、ブナ自然林、ヒノキ人工林、ウラジロモミ林、人工林風倒ギャップに設置した5ケ所の固定調査区について、追跡調査をおこなった。この結果を前回までの調査結果と比較することによって、風倒被害以降の森林の再生状況および植生変化を明らかにした。

固定調査区の位置

固定調査区の位置


各固定調査区の調査実施年

●は調査年を示す。(*は種組成のみ実施)

  2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
未植生地(ネット外)                
未植生地(ネット内)              
ブナ自然林                  
ヒノキ人工林(若齢)                  
ヒノキ人工林(壮齢)                  
ウラジロモミ人工林                  
人工林風倒ギャップ                  

2.調査方法

2012年は各調査区において、以下の調査をおこなった。

(1) 毎木調査
調査区内に生育している樹木について、樹高および根元直径を測定した。高木性樹種については樹高30cm以上、低木性樹種については樹高130cmの個体を調査対象とした。樹高は検測棹をもちいてcm単位で、根元直径はノギスを用いてmm単位で計測した。また、個体識別のためにナンバーテープをつけ、位置図と樹冠投影図を作成した。

(2) 植生調査
10m×10mの区画を単位として、植物社会学的な方法による植生調査をおこなった。これは、出現するすべての植物をリストアップして、それぞれの種の優占度および群度を判定するものである。優占度・群度はBraun-Blanquet(1964)の判定基準にもとづき、優先度はr、+、1~5の7段階、群度は1~5の5段階で記録した。

3.調査結果

(1)未植生地(ネット外)
高木性樹種は、2002年に10種98本が生育していたが、2007年は12種55本を経て、今回は9種29本に減少した。低木性樹種も、2002年に5種19本、2007年に9種31本、今回は6種20本に減少した。ススキが優占する場所では樹木が少ないが、それ以外の部分では、根元直径5cmを超えるキハダ、ミズキ、エゴノキ、ホオノキなどの高木性樹種が比較的均等に分布していた。

未植栽地(ネット外)の樹種別個体数とサイズの変化
未植生地(ネット外)

(2)未植生地(ネット内)
高木性樹種は、2002年に12種114本が生育していたが、2008年は12種65本、今回は12種36本に減少した。最も個体数が多かったのはミズキの9本で、次いでエゴノキ7本、オオモミジ6本であった。ネット外の調査区と同様、キハダとミズキは大幅に減少しており、キハダは2008年の18本から2本に、ミズキも16本から9本になった。低木性樹種も、2008年に10種24本から大きくは変わらず、今回は10種23本であった。樹木の分布は、ネット外の調査区と同様、調査区の一部で樹木を欠く部分がみられる。これは、ススキが優占していた部分である。1ケ所に固まって生えていたエゴノキの一部の枯死、キハダの枯死によって、高木性樹種の分布は2008年よりも均等になった。

未植栽地(ネット外)の樹種別個体数とサイズの変化
未植生地(ネット外)

(3)ブナ自然林
この調査区は、富士山の南側斜面を代表するブナ林の典型的な部分に設置したものである。2006年から6年の間に、亜高木層を構成していたアズキナシ、オオウラジロノキ、ミズキの3個体が枯死していた。また、前回調査時の2006年で斜面下部にみられたアブラチャンの幹の枯死が、今回はさらに斜面上部でも増加した。ただし、これらの株からは細い萌芽幹が再生しており、個体としては枯死してはいない。これらの枯死木により、亜高木層と低木層の樹冠は少しまばらになっている。また、本地域のブナ林では、低木層の衰退、高茎草本の減少、下嗜好植物や小型の草本種の増加、雑草的な種の侵入といった変化が生じていることが明らかであった。

(4)ヒノキ人工林(若齢)
この調査区は、1982年に植林された林齢30年のヒノキ人工林で、2010年に間伐がおこなわれた。ヒノキの胸高直径階別本数分布の経年変化をみると、最も本数が多い階級が、2001年の10~15㎝から、現在は20~25㎝に移行した。また、間伐が行われたため、樹木サイズは以前よりも均等になっている。 出現種数は2006年の34種から61種に大きく増加した。ただし、低木層の衰退はより進んでおり、今回は低木層に生育する種はまったくみられなかった。草本層の種数は増加したものの植被率は10%から5%に低下していた。間伐により林床の光環境が大きく好転したにもかかわらず、低木層や草本層の発達がみられないことは、シカの高い採食圧が加わっているためと考えられた。

(5)ヒノキ人工林(壮齢)
この調査区は、1958~1959年の台風による風倒被害後、1960年に植栽された52年生のヒノキ人工林である。過去に間伐がおこなわれており、樹木密度は若齢林よりも小さい。ヒノキの胸高直径階別本数分布の経年変化をみると、最も本数が多い階級は、2006年同様20~25㎝だったが、25cm以上の階級でも本数が増加していた。また、草本層の植被率は60%から20%に低下していた。

(6)ウラジロモミ人工林
この調査区は、1945年に植林された67年生のウラジロモミ人工林である。2001年の時点での生存幹17本のうち10本で、根元部分にシカによる剥皮に被害がみられ、調査開始前からシカの食害の影響を受けてきた。2011年夏の大雨により、調査区内に土砂の流入がみられる。胸高直径階別本数分布の経年変化をみると、2006年から大きく変化はしていない。樹高階別本数分布では、16m以上の階級に属する本数が大きく増加していた。また、低木層の植被率は、2006年と比べると10%から20%に増加したのに対し、草本層の植被率は90%から60%に減少していた。

(7)人工林風倒ギャップ
この調査区は、風倒によって生じたギャップの回復過程を追跡するために設置したものである。調査区の設置箇所では主にモミが生育していた。調査では2006年から2012年の間にモミは良好な成長を示していた。出現種数は2006年の80種から66種と減少した。高木層と亜高木層では、2006年に比べて大きな変化はなかった。低木層の発達にともない、草本層の植被率は90%から75%に低下した。


2001年の様子

2001年の様子

       2012年の様子

2012年の様子


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