生物多様性の保全

生物多様性保全に関する
方針と目標

生物多様性宣言と生物多様性行動指針

住友林業は、2006年度に国内社有林における「生物多様性保全に関する基本方針」、2007年度に「木材調達理念・方針」を定めました。また、2007年度に「環境方針」を改訂し、生物多様性への配慮を加えました。さらに、2012年3月には、住友林業グループの生物多様性への認識や姿勢を示す「生物多様性宣言」、社内的な指針を取り決めた「生物多様性行動指針」、具体的な行動目標を定めた「生物多様性長期目標」を制定しました。

2015年7月には、「環境理念」「環境方針」「住友林業グループ生物多様性宣言」「住友林業グループ生物多様性行動指針」を統合しました。これにより、生物多様性への取り組みも「住友林業グループ環境方針」で統一された方針のもと、運用しています。

※ 住友林業グループでは1994年に「環境理念」を、2000年に「環境方針」を策定

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生物多様性保全への社内体制

住友林業グループにおける生物多様性保全に向けた取り組みは、環境マネジメント体制に則り、住友林業の代表取締役社長を責任者に、サステナビリティ推進担当執行役員及びサステナビリティ推進部長が、住友林業グループ各社の活動を統括しています。

保護地域などに関するコミットメント

住友林業グループは、木材資源を生産、確保するため、国内外で多くの森林を所有・管理しています。これらの森林は、世界自然遺産エリアに指定された地域ではなく、また、世界自然遺産に指定されたエリアでの施業は今後も行いません。
国土が狭い日本の国立公園は、土地の所有に関わらず指定を行う「地域制自然公園制度」を採用しており、国立公園内にも多くの私有地が含まれています。住友林業の社有林も、一部、国立公園に含まれるエリアがありますが、その他の保安林等に指定されている地域とともに、法令を遵守した施業を行っています。
また、リスクアセスメントの上で、生物多様性の観点から重要と判断された地域においては、法令遵守にとどまらず、活動の見直し、最小化、回復、及びオフセットなど、影響の緩和に努めています。

住友林業グループでは、国内に約4.8万haの社有林を、海外では約24.0万haの森林を管理しています。これらの管理森林を「保護林」「経済林」などに区分し、国内外とも、「保護林」においては原則的に施業を行わない自然保護エリアとしています。

森林の目的に応じたゾーニング管理

行政によって決められた事業地の境界は、生態系の境界と一致するとは限りません。インドネシアの子会社ワナ・スブル・レスタリ(WSL)、マヤンカラ・ タナマン・インダストリ(MTI)及びクブ・ ムリア・ フォレストリ(KMF)では、政府管理下の隣接する保全林を含めた徹底した動植物調査の上、保護すべきエリアと活用すべきエリアを設定しています。オランウータンやテングザルといった希少な動物の生息地が島状に取り残されないよう、隣接する企業とも相談し、グリーンコリドーを網の目状に設定するコンサベーションネットワークを構築しています。

インドネシアの森林管理エリア

WSL/MTI/KMFの管理エリア

コンサベーションネットワーク

コンサベーションネットワーク

関係者による取り組みの評価

WSL・MTIが提唱したコンサベーションネットワークの概念と具体的な取り組みは、世界的にも稀有な取り組みとして国内外で注目されています。2019年にスペインのマドリードで開催された第25回気候変動枠組条約締約国会議(COP25)では、インドネシアパビリオンにて民間企業代表として発表し、国際機関代表、研究者、 NGOから高く評価されました。2022年にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されたCOP27においても熱帯森林を取り巻く課題に対する技術的アプローチや当社の取り組みを紹介しました。

また、都市の緑化事業においては、発注いただいたお客様に一般社団法人いきもの共生事業推進協議会(ABINC)が推進するいきもの共生事業所®や公益財団法人都市緑化機構が推進するSEGES緑の認定への認定登録を積極的に働きかけ、第三者認証を通じた緑化取り組みの品質向上に努めています。

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)/LEAPへの取り組み

生物多様性や自然環境の変化は、様々な形で企業業績に影響を与えます。TNFDは、各企業が生物多様性などの自然資本に関する情報を開示するための枠組みを検討する組織で、グローバル・キャノピー、国連開発計画(UNDP)、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)、WWFなどにより、2021年6月に設立されました。これまで数度にわたり情報開示フレームワークの試行版がリリースされ、2023年9月に最終提言が行われるとされています。

住友林業グループは、2020年9月にBusiness for Nature「 Call to Action(行動喚起)」へ賛同・署名するなど生物多様性や自然環境に関するイニシアティブの動向に注視してきました。2022年2月にはTNFDの議論をサポートするステークホルダーの集合体であるTNFDフォーラムに参加するとともに、国内外の様々なネットワークを通じてTNFDの情報収集に努めています。

TNFDは、情報開示の枠組みに併せて、企業の自然との依存関係や影響、リスクと機会を分析・評価するための手法LEAPアプローチを提言しています。住友林業グループは、今後のTNFD開示に向けて、まず、このLEAPアプローチに試行的に取り組みました。

※ Locate(立地), Evaluate(評価), Assess(調査), Prepare(準備)の略で、自然との接点の発見(L)、依存関係と影響の診断(E)、重要なリスクと機会の評価(A)、対応し報告するための準備(P)の4フェーズから構成されています

事業と生物多様性との接点

住友林業グループは、国内外から木材を仕入れ、販売する流通事業、国内外における木質建材製造事業、日本、米国、豪州で戸建住宅の建築・販売事業、集合住宅や商業複合施設の開発事業、中大規模建築事業などを展開しています。こうした住友林業グループの事業の中でサプライチェーン全体を見渡した場合に、最も世界の広範囲にわたり、かつ大きなボリュームで生物多様性や自然資本に依存し、影響を与えている木材調達の業務に関して、LEAPアプローチを試行することにしました。

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LEAPアプローチでの分析

発見する(Locate)
L1 ビジネスのフットプリント 木材・建材の商社部門ではグローバルに木材・建材の流通、製造、販売を手掛けています。
L2 自然との接点 当社のビジネスを俯瞰した際、特に森林と接点を持っていると特定しました。
L3 優先地域の特定 木材輸入量が多い8地域(カナダ・ブリティッシュコロンビア州、ニュージーランド・タスマン地方・ネルソン地方、インドネシア・西カリマンタン州・中部カリマンタン州・東ジャワ州・中部ジャワ州、マレーシア・サラワク州)が森林と特に接点を持っており、優先地域に特定しました。
L4 セクターの特定 木材の取り扱い量が多い木材の調達を行う部門と特定しました。
診断する(Evaluate)
E1 関連する環境資産と生態系サービスの特定 約20か国から木材を調達しています。
E2 依存関係と影響の特定 WWF Biodiversity Risk Filterによると森林製品に関する産業は、下記項目が特にリスクが高いとされています。
①水の希少性 ②木材の入手制限 ③土壌の状態 ④地すべり ⑤火災の危険性 ⑥猛暑 ⑦熱帯低気圧 ⑧土地・淡水・海域の利用変化 ⑨森林の樹冠減少 ⑩保護・保全地域
また、Global Forest Watchで過去20年間の各地域の森林減少の程度と原因を調べました。
E3 依存関係の分析 上記8地域でリスク評価を実施しました。(WWF Biodiversity Risk FilterとGlobal Forest Watch)
E4 影響の分析 上記8地域でリスク評価を実施しました。(WWF Biodiversity Risk FilterとGlobal Forest Watch)

地域ごとのリスク評価

(1) カナダ(ブリティッシュコロンビア州)

この地域においては過去20年間で森林事業と山火事に起因する森林減少があり、過去20年間の1ヘクタールあたりの森林減少率は▲2%~▲0.5%となりました。西は太平洋に面し、東にはロッキー山脈が通り、保護・保全地域が多く、木材の入手と地すべりに関するリスクが高い地域です。

(2) ニュージーランド(タスマン地方、ネルソン地方)

この地域においては森林事業での森林減少が顕著となっており、過去20年間の1ヘクタールあたりの森林減少率はタスマン地方が▲2%~▲0.5%、ネルソン地方は一部の森林が回復されたことが寄与し、全体として+0.5%~+2%増となりました。国立公園が点在する緑豊かな地域で地すべりのリスクが高いです。

(3) インドネシア

・西カリマンタン州

赤道直下のこの地域においては熱帯雨林が広がっています。しかし、大規模な農地開発に起因する森林減少が著しく、過去20年間の1ヘクタールあたりの森林減少率は▲5%~▲2%となりました。未開の自然が多いため、木材の入手制限があり、地すべり、猛暑の影響を受けやすい地域です。

・中部カリマンタン州

赤道直下のこの地域においては熱帯雨林が広がっています。西カリマンタン州と同様に、大規模な農地開発に起因する森林減少が著しく、過去20年間の1ヘクタールあたりの森林減少率は▲5%~▲2%となっています。未開の自然が多いため、木材の入手制限があり、地すべり、猛暑の影響を受けやすい地域です。

・東ジャワ州

この地域においては大規模な農地開発や森林事業などに起因する森林伐採が多く、一部地域で森林再生が見られるものの、過去20年間の1ヘクタールあたりの森林減少率は▲5%~▲2%となっています。火災のリスク、水の希少性が高い地域となっています。

・中部ジャワ州

この地域においては都市化、森林事業などに伴う森林減少が多く、過去20年間の1ヘクタールあたりの森林減少率は▲2%~▲0.5%となっています。火山が点在し、火災や地すべりのリスクが高い地域となっています。

(4) マレーシア

・サラワク州

大規模な農地開発や森林事業に起因する森林減少が著しく、過去20年間の1ヘクタールあたりの森林減少率は▲5%~▲2%となっています。未開の自然が多いため、木材の入手制限があり、地すべりの影響を受けやすい地域です。

WWF Biodiversity Risk Filterのリスク評価指標

指標名 性質 説明
水の希少性 依存性 淡水資源が豊富か不足しているかを意味します
木材の入手制限 依存性 実現可能な木材供給の量と木材の入手しやすさを意味します
土壌の状態 依存性 土壌有機炭素(SOC)含有量に基づいています
地すべり 依存性 降雨や地震によって引き起こされる地すべりの潜在的な脅威を評価するものです
火災の危険性 依存性 気象の状況による山火事の潜在的な脅威を評価するものです
猛暑 依存性 5年間の再現期間中の異常な暑さの脅威を評価するものです
熱帯低気圧 依存性 50年周期で予測される最大風速(mph)を評価するものです
土地・淡水・海域の利用変化 影響 農地の拡大、河川の分断、海運など人間の直接的な影響による海洋環境に対する圧力を測定します
森林の樹冠減少 影響 森林の樹冠の減少を測定するものです
保護・保全地域 影響 評価ユニットと重なる保護・保全地域を示すものです

Global Forest Watchの森林の増減に関する指標

被覆樹木の増加 被覆樹木が増加している領域を特定するものです
被覆樹木の減少 被覆樹木が減少している領域を特定するものです
被覆樹木の増減 被覆樹木の正味の増減を特定するものです
被覆樹木の損失に関する支配的要因 被覆樹木の損失に関する支配的要因とその程度を示すものです

リスクに対する対応策

住友林業グループでは、木材調達において、生物多様性保全を含めた持続可能性への対応を行っています。

主な動き

2005年
「木材調達基準」策定
2007年
「木材調達理念・方針」策定
2015年
「木材調達理念・方針」を「住友林業グループ調達方針」に改訂
2017年
「住友林業グループ倫理規範」策定
2019年5月
「木材調達アクションプラン」策定
2021年末
直輸入材等における持続可能な森林からの木材及び木材製品の取扱比率100%を達成

住友林業グループではコンプライアンス、人権尊重、労働慣行、生物多様性保全、地域社会への影響の観点から独自の木材調達基準を定め、デューディリジェンスを実施しています。木材調達委員会で持続可能性の観点からリスク評価を実施しており、これに満たないサプライヤーとの契約を見直すなどし、2021年度末には持続可能な木材及び木材製品の調達率を100%(通期
97.8%)としました。2022年度は、通期で100%を維持しています。

生物多様性の保全に対する行動

住友林業グループは自然との共存共生を図るべく、自然損失をゼロとし、回復に転じさせるネイチャーポジティブの達成に向けて様々な取り組みを実施しています。それらの活動を、SBT for Natureが推奨するネイチャーポジティブ達成に向けた行動のフレームワークに則って、次の通り、整理しました。

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出典:Science based targets network,2020.「自然に関する科学に基づく目標設定 企業のための初期ガイダンスエグゼクティブサマリー」

基本的な考え方 取り組みとコミットメント
回避 「住友林業グループ調達方針」や「木材調達管理規定」を策定、それに適合した持続可能な木材及び木材製品を調達し、問題ある木材及び木材製品の利用を回避しています。また、森林事業においては、木材生産のための「経済林」と環境保全を重視する「保護林」に区分して管理し、生物多様性を保全するエリアでの施業を回避しています。国内社有林において、多様な生物が生息する水辺では、「水辺林管理マニュアル」を作成し、施業を制限しています ・サプライチェーンにおけるサステナビリティ調達調査を年1回実施
・木材調達委員会を年4回実施
・入荷するPKSの認証取得率(2024年度計画100%)
・社有林における環境林割合の確保(2024年計画30%以上)
・「住友林業レッドデータブック」「水辺林管理マニュアル」を作成し適切な管理と保全を実施
軽減 木材の循環利用を促進することで資源消費の減少と効率化を進め、サーキュラーバイオエコノミーの実現を目指すとともに、自然への負荷の軽減に努めています。また、森林事業においては、生物多様性保全を含む森林の公益的機能を保ちながら木材資源を永続的に利用するため、適正な管理のもと、持続可能な森林経営を進めています。 ・産業廃棄物最終処分量(2021年度比削減率 2024年度計画5.4%減)
・新築現場におけるリサイクル率(2021年度実績95.1%→2024年度計画98.0%)
・製造工場における廃棄物のリサイクル率(2021年度実績海外98.5%、国内99.1%→2024年度計画99.0%、99.0%)
・未利用資源(バイオマス用途)取扱量(2024年度計画19,202㎥)
・国内外の森林認証面積(2021年度実績221,971ha→2024年度計画242,493ha)
・SGEC認証面積100%の維持(国内社有林)
復元・再生 損失もしくはその恐れのある生物多様性を復元・再生する活動を、都市や住宅における緑化事業などの本業と事業活動を通じて培った経営資源を活かす社会貢献活動の両面で実施しています。 ・自生種の販売本数の増加(2021年度465千本→2024年度計画500千本)、自生種を中心に緑化対象地に応じた樹種選定の指針を定めた「ハーモニックプランツ®」の推進
・都市緑化事業などにおける「いきもの共生事業所認証(ABINC認証)」の取得推進
・台風で被害を受けた富士山麓の国有林の一部エリアを自然林に復元させる富士山「まなびの森」プロジェクトを実施
・東日本大震災の際、津波で被害を受けた沿岸を再生する植樹活動「奥松島自然再生ボランティア」を実施
変革 Natureや生物多様性に関する国内外のルールメーキングや業界団体・関連団体の活動に参画して意見発信するとともに、NGOなどの活動を支援しています。 ・TNFDフォーラムに参加
・WBCSD Forest Solutions Groupに加入し、Nature Positive Roadmapなどの策定プロセスに関与
・Business for Natureが提唱した「Call to Action(行動喚起)」「COP15評価と開示の義務化を求める企業声明」に賛同
・生物・土地由来のGHGの吸収と排出を算出するGHGプロトコルの新ガイドライン策定にパイロット企業として参画
・環境省が主導する30by30アライアンスへ参加
・経団連自然保護協議会で副会長職を歴任、一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)へ参加

関連イニシアティブの支持や
団体との協働

住友林業は、生物多様性保全に積極的に取り組む団体等に多数参加しています。経団連自然保護協議会では、住友林業の会長が副会長を務めるほか、運営を担う企画部会に委員を派遣しています。2020年6月には、「経団連生物多様性宣言イニシアチブ」において提言された「経団連生物多様性宣言・行動指針(改訂版)」への賛同を行いました。また、一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)にも参加し、分科会等で企業の生物多様性への取り組みのあり方を共同研究しています。

住友林業緑化では、環境緑化事業で手がけた物件について、一般社団法人いきもの共生事業推進協議会(ABINC)が推進するいきもの共生事業所®や公益財団法人都市緑化機構が推進するSEGES緑の認定への認定登録を積極的に行っています。なお、この公益財団法人都市緑化機構の会長を住友林業の最高顧問が務めています。

生物多様性民間参画ガイドライン策定への参画

環境省は、生物多様性の保全と持続可能な利用を進めていく上で、企業活動が重要な役割を担っているという認識の下、事業者向けに生物多様性民間参画ガイドライン(第1版)を2009年に策定しました。住友林業は検討会の委員として同ガイドラインの策定に携わりました。

同ガイドラインは、生物多様性の問題に取り組んでいない事業者にもわかりやすく、また、より効果的に取り組みを進めたい事業者にも役立ててもらえるように、生物多様性保全や損失削減に必要な基礎情報や考え方をまとめたものです。

また、2017年12月には、SDGs等の影響による生物多様性への関心・期待の高まりを受け、第2版が公表されました。その中で住友林業の持続可能な木材調達が優良取り組み事例として紹介されました。

Business for Nature「Call to Action(行動喚起)」への賛同・署名

世界に多数あるビジネスと生物多様性に関するイニシアティブの声を一つにまとめて政策決定者に伝えようとする目的で、2019年7月に、Business for Natureが結成されました。2020年5月には、ポスト 2020生物多様性グローバルフレームワークを策定する中、「これからの10年間で自然の損失を逆転させる」ための政策を採用するよう働きかけようという行動喚起がなされました。この行動喚起に対して、住友林業は、2020年9月に賛同、署名しました。