持続可能な森林経営

コンサルタント事業

国内事例

森林ICTプラットフォームの
自治体導入支援

国内林業では、先進的な地域においては、航空測量による森林資源量解析や、森林資源データ・システムの整備が進められている一方、多くの地域では森林資源情報の整備が十分でありません。そのような状況の中、住友林業はASロカス株式会社と共同で森林林業クラウドシステム「森林ICTプラットフォーム」を構築しました。「森林 ICTプラットフォーム」は、高度な森林資源情報や、森林・林業に関わる様々な機能を搭載できる総合的なシステムであり、2013年度から全国の市町村・林業事業体を対象に提供しています。地域の特性に応じた森林・林業に関わる多様なデータや機能を搭載し、導入地域ごとに最適なカスタマイズを行って提供していることが大きな特徴です。2022年末までに19の自治体・事業体への導入を支援しました。

森林ICTプラットフォーム

森林ICTプラットフォーム

福岡県糸島市における
「森林・林業マスタープラン」の作成支援

住友林業は、長年にわたる社有林経営で培った森林管理に関する豊富な知見を活かし、地方自治体などが行う森林整備や林業振興の計画作成にかかるコンサルティングを行っています。その一環として、2016年1月より、地域の森林資源活用に取り組む福岡県糸島市における「森林・林業マスタープラン」の作成支援を行いました。

マスタープランの位置づけ

作成支援を行った森林・林業マスタープランは、糸島市における適正な森林整備と市産材の有効活用に関する施策の根幹となるものであり、同市が推進する「ICTを活用した木材の市内活用型サプライチェーンの構築事業」の基本計画として位置づけられています。

マスタープランの作成

マスタープランの作成方法のために、まず航空レーザー測量により市域の森林資源量を把握した後、森林が有する成長力や利便性、環境保全機能等に着目したゾーニングを実施。ゾーニングごとに森林の取り扱い方針を定め、伐採計画や産出された木材を運び出すための最適な路網計画を策定しました。さらにマスタープランに沿った施策を実行するための体制づくりを併せて検討しました。

現在は、林野庁の「林業成長産業化地域創出モデル事業」を活用して、計画の実行体制を構築しており、このマスタープランが地域の林業振興に貢献できるよう支援しています。

山口県長門市と林業成長産業化で
包括連携協定締結

住友林業は山口県長門市と、同市における林業・木材産業の成長を促進し、地域経済を活性化させることを目的とした「林業成長産業化に関する包括連携協定」を2019年9月に締結しました。

これまでの取り組み

長門市は2017年4月、林野庁から「林業成長産業化地域」に選定され林業の成長産業化を図ってきました。長門市林業・木材産業成長産業化推進協議会を立ち上げ、その下に各種部会を設置し林業活性化に向けて、地元の関係者や有識者による検討を重ねてきました。その結果、2020年7月には、長門市や地域の関係団体が中心となり、地域の森林管理を担う一般社団法人「リフォレながと」が設立されました。

包括連携協定による効果

住友林業と長門市が協定を結ぶことで、地域の原木生産量の増加、林業労働者の確保・育成、木材需要の拡大を目指します。また、長門市の山林を集約させることで効率的な森林整備を実施し、さらなる林業の成長産業化のため持続可能な森林経営を推進していきます。

2022年は、市産材の域内サプライチェーン構築の支援として、スマート技術等を活用して素材生産量の拡大や木材需要の確保について、現地実証・調査や提案を実施しました。

協定の概要

  • 主伐・再造林の推進に関すること
  • コンテナ苗の安定的な生産・利用に関すること
  • コンテナ苗生産技術の開発・普及及び事業者育成に関すること
  • 森林管理の中核となる組織の設立及び運営に関すること
  • 森林資源量の把握及び森林所有者の意向把握に関すること
  • 林業・木材産業におけるICTの導入・有効活用に関すること
  • 森林施業における林業機械の導入・有効活用に関すること
  • 森林所有者・林業事業体の意欲向上に資する経営手法に関すること
  • 林業・木材産業の人材確保・定着支援に関すること
  • 市内の製材所等と連携したサプライチェーンの構築に関すること
  • 都市部も含めた市産材の需要拡大に関すること

岡山県西粟倉村・三井住友信託銀行と
包括的連携協定の締結

住友林業は、岡山県西粟倉村・三井住友信託銀行と、林業を中心とする地域振興策の推進に向けた包括的連携協定を2020年8月に締結しました。

本協定のスキーム

本協定での3者の役割は、森林信託契約を通じて、森林所有者から委託を受けた三井住友信託銀行に対し、住友林業は林業の専門家として森林管理手法や森林管理専門会社が行う施業の効率化、木材の販売促進等について経営サポートを行います。西粟倉村は行政の立場から支援や路網、森林情報等のインフラ整備の検討等を行います。

課題解決に向けた取り組み

現在、日本の林業は森林資源が充実し、利用期を迎えている一方、木材価格はピーク時の4分の1まで下がり、森林所有者の森林管理を行う意欲が減退し、森林管理・森林施業の担い手も不足しているという課題を抱えています。解決策として森林管理を地方自治体や意欲のある林業経営体に委託する動きが始まっています。森林信託はその方策の1つであり、今回締結する3者の得意分野を活かし、森林信託の取り組みを村内外へ展開していきます。さらには林業をベースとした地域活性化の推進に貢献します。

2022年は、西粟倉村、並びに森林管理専門会社である株式会社百森に対して、施業生産性の向上や流通コストダウンに関する調査・分析・改善提案を行いました。

協定の具体的な連携事項

  1. 西粟倉村が進める林業及び林業を中心とした地域振興に関する事項
    (1)森林情報の利活用による森林管理の効率化と森林所有者への情報提供
    (2)環境に配慮した循環型林業の推進と村産材の供給力向上・需要拡大
    (3)森林を活用した新たなサービス産業の創出(特用林産含む)
  2. 西粟倉村内の林業関連事業体の事業面、経営面に関する事項
    (1)林業関連事業体の森林所有者への各種サービス向上
    (2)林業関連事業体の森林管理・森林施業のコストダウンや素材の有利販売
    (3)林業関連事業体の経営体質強化
  3. 森林信託導入及び普及に関する事項
    (1)森林信託普及に向けた課題抽出と解決策の検討
    (2)森林信託を活用した森林管理・森林経営手法の標準化
    (3)森林信託対象森林から産出される木材の有効活用
    (4)他地域への森林信託普及促進

本協定のスキーム

本協定のスキーム

CO2吸収量の視える化による森林価値向上

視える化の背景

森林資源を基盤とした地域活性化の実現には適切な森林経営が求められます。しかし、森林所有者の経営に対する意識低下、森林の管理や整備に掛かるコストの高さが原因となり、利用されないままの森林が増加しています。

そこで住友林業は、西日本電信電話株式会社などと岡山県真庭市をフィールドに、森林の価値を高め将来にわたり持続可能な森林経営ができるよう、質の高いカーボンクレジット創出による森林価値向上をめざし、CO2吸収量の「視える化」などの共同実証を実施しました。

取り組み内容

森林事業者への聞き取り、現地でのプロット調査、ドローン撮影で取得したデータを解析などにより森林情報をデジタル化し、森林経営にかかるコストシミュレーションモデルの構築や森林のCO2吸収量を算定しました。このモデルによって、各地の森林で課題となっている森林経営コストをあらかじめ把握することで適切な森林管理や木材生産が可能となります。また実証で得られたCO2吸収量のデータをもとにカーボンクレジットの創出をめざします。

写真キャプション

視える化:CO2吸収量のエリア分布

海外事例

森づくりに対する企業のニーズは多様化しています。近年は、事業を展開する海外の国や地域の森林への影響を緩和するために、また企業の社会的責任を果たすために、途上国での森林保全活動や植林活動を実施する企業も少なくありません。

住友林業は、国内外の森林経営で培ったノウハウを活かし、熱帯地域における荒廃地の修復、生物多様性の回復、地域社会との共生に配慮した植林・森林保全など、企業や団体へのコンサルタント事業を行っています。

野生動物保護林 修復再生事業

三井住友海上火災保険株式会社は2005年から、インドネシアのパリヤン野生動物保護林(ジョグジャカルタ特別州グヌンキドゥル県)において荒廃した森林の修復に取り組んでおり、住友林業はこのコンサルティングを行っています。

第1期の活動として2011年3月までに350haの土地に約30万本の植林を完了しました。第2期の活動として2011年4月からは、地域住民の生計向上のための農業組合の組織化と農業指導プログラムや、地元関係者と共に保護林の管理方法を検討する組織の設置、地元の学校と連携した環境教育プログラムなどを支援してきました。 第3期の活動として2016年4月からは「保護林内の木の少ない場所での追加植林」と「保護林周辺での地域住民による社会林業」の支援に加え、社会林業で配布する苗づくりを行っています。現在は第4期に入り、活動、支援を継続中です。これらの活動が評価され、2020年9月、三井住友海上火災保険株式会社はインドネシア政府より、自然環境保護賞(企業部門)を受賞しました。

また、この事業では、植林地や研修センターなどの関連施設を開放し、森林修復のノウハウや経験を積極的に公開しており、地元の小中学生や、森林、環境、教育分野などの研究をしているインドネシア国内外の学生や専門家、多くの政府関係者が訪問しています。

社会林業で配布する苗木を育成する地元の農業組合メンバー

社会林業で配布する苗木を育成する地元の農業組合メンバー

社会林業で配布する苗木を育成する地元の農業組合メンバー

地域住民へ苗木を配布する様子

「熱帯泥炭地コンサルティング」と「質の高い炭素クレジット」の事業化に向けて

住友林業と株式会社 IHIは、「森林管理コンサルティング事業」と「自然資本の価値を最大化する持続可能なビジネスの開発」に向けた合弁会社、NeXT FORESTを2023年2月に設立しました。NeXT FORESTは、熱帯泥炭地を適切に管理するコンサルティング事業、森林や土壌における炭素蓄積量など自然資本の価値を適切に評価することによる質の高い炭素クレジット※1の創出や販売を行います。

住友林業は国内外で培ってきた森林の管理技術やインドネシアでの熱帯泥炭地の管理技術、及び地上測定データの蓄積が大きな強みです。IHIグループは長年の宇宙開発で培った人工衛星データの利用技術や、気象観測・予測技術が強みです。両社の強みを合わせ、熱帯泥炭地の管理技術を世界中に広く普及させる手法を開発し、コンサルティング事業を展開することを目指します。また、広大な森林が吸収する二酸化炭素量を高精度で評価しモニタリングする手法を開発します。気候変動対策としての炭素吸収の価値だけでなく、生物多様性や水循環の保全、地域社会への貢献といった「自然資本※2」としての付加価値を加えることで「質の高い炭素クレジット」を創出することも目指していきます。

※1 取引可能な温室効果ガスの排出削減量証明。排出量を企業間や国際間で流通するときに、クレジットとして取り扱われ、その取引単位は、1t-CO2

※2 例えば森林が、二酸化炭素を吸収し、水をきれいにするように、価値のあるサービスを生み出すストック(資本)としての自然