持続可能な森林経営

コンサルタント事業

国内事例

福岡県糸島市における
「森林・林業マスタープラン」の作成支援

住友林業は、長年にわたる社有林経営で培った森林管理に関する豊富な知見を活かし、地方自治体などが行う森林整備や林業振興の計画作成にかかるコンサルティングを行っています。その一環として、2016年1月より、地域の森林資源活用に取り組む福岡県糸島市における「森林・林業マスタープラン」の作成支援を行いました。

マスタープランの位置づけ

作成支援を行った森林・林業マスタープランは、糸島市における適正な森林整備と市産材の有効活用に関する施策の根幹となるものであり、同市が推進する「ICTを活用した木材の市内活用型サプライチェーンの構築事業」の基本計画として位置づけられています。

マスタープランの作成

マスタープランの作成方法のために、まず航空レーザー測量により市域の森林資源量を把握した後、森林が有する成長力や利便性、環境保全機能等に着目したゾーニングを実施。ゾーニングごとに森林の取り扱い方針を定め、伐採計画や産出された木材を運び出すための最適な路網計画を策定しました。さらにマスタープランに沿った施策を実行するための体制づくりを併せて検討しました。

2023年は、作成したマスタープランを基に、詳細な5ヵ年の伐採計画を作成しており、このマスタープランが地域の林業振興に貢献できるよう支援しています。

山口県長門市と林業成長産業化で
包括連携協定締結

住友林業は山口県長門市と、同市における林業・木材産業の成長を促進し、地域経済を活性化させることを目的とした「林業成長産業化に関する包括連携協定」を2019年9月に締結しました。

これまでの取り組み

長門市は2017年4月、林野庁から「林業成長産業化地域」に選定され林業の成長産業化を図ってきました。長門市林業・木材産業成長産業化推進協議会を立ち上げ、その下に各種部会を設置し林業活性化に向けて、地元の関係者や有識者による検討を重ねてきました。その結果、2020年7月には、長門市や地域の関係団体が中心となり、地域の森林管理を担う一般社団法人「リフォレながと」が設立されました。

包括連携協定による効果

住友林業と長門市が協定を結ぶことで、地域の原木生産量の増加、林業労働者の確保・育成、木材需要の拡大を目指します。また、長門市の山林を集約させることで効率的な森林整備を実施し、さらなる林業の成長産業化のため持続可能な森林経営を推進していきます。

2023年は、市内での市産材活用のためのブランド化の検討や、スマート技術等を活用して素材生産量の拡大や木材需要の確保について、現地実証・調査や提案を実施しました。

協定の概要

  • 主伐・再造林の推進に関すること
  • コンテナ苗の安定的な生産・利用に関すること
  • コンテナ苗生産技術の開発・普及及び事業者育成に関すること
  • 森林管理の中核となる組織の設立及び運営に関すること
  • 森林資源量の把握及び森林所有者の意向把握に関すること
  • 林業・木材産業におけるICTの導入・有効活用に関すること
  • 森林施業における林業機械の導入・有効活用に関すること
  • 森林所有者・林業事業体の意欲向上に資する経営手法に関すること
  • 林業・木材産業の人材確保・定着支援に関すること
  • 市内の製材所等と連携したサプライチェーンの構築に関すること
  • 都市部も含めた市産材の需要拡大に関すること

岡山県真庭市における森林・林業DXの推進

住友林業は2023年6月より岡山県真庭市において「森林・林業DX推進事業」を受託し、実施しています。

事業の目的

真庭市では森林管理の担い手が不足している中、市役所や森林組合の職員が自律的にデジタルデータを活用し、効率的・計画的に森林整備を推進することを目指しています。本事業では、モデル地域を設定し、デジタルデータを整備した上で、森林整備計画を作成する手法を体系化し、それぞれの職員に普及することを目指しました。

取り組み内容

本事業では、真庭市においてモデル地区を選定し、レーザー計測により精度の高い森林資源データを取得しました。これらのデータを活用し、災害への強靭性、林業の経済性等を考慮した上で、再造林を推奨する森林や針広混交林化を目指すべき森林等、森林の役割を区分するゾーニングを行いました。さらにそのゾーニング結果を踏まえ、長期的な視点から皆伐や間伐の優先度を設定し、具体的な森林整備計画に落とし込みました。これらの一連の作業を市役所や森林組合の職員と議論した上で、真庭市ならではの方法として整理しました。本事業の成果を基に、真庭市における森林整備が加速することを願っております。

レーザー計測で得られた林分の断面図

レーザー計測で得られた林分の断面図

森林価値創造プラットフォームのサービス提供に向け協業開始

住友林業とNTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)は、J-クレジット制度※1の森林由来カーボン・クレジット創出・流通を活性化するプラットフォームサービス提供に向けた協業を開始しました。
本協業では「森林と社会をつなぐ」をコンセプトに掲げ、GIS※2を含むクラウド型サービスを活用し国内の森林資源情報や位置情報などをプラットフォーム上で統合して管理し、クレジット発行者である森林所有者向けや審査機関向け、またクレジット購入者向けのサービスを展開します。森林由来カーボン・クレジットの創出や審査、取引のマッチングを包括的に支援する日本で初めての取り組みです。
住友林業の「木」に関わるバリューチェーンや森林経営の豊富なノウハウとNTT Comが専門とするICT技術を融合し、質の高い※3カーボン・クレジットの創出と透明性の高い※4カーボン・クレジットの流通を促します。本サービスの提供に先立ち、2023年4月からクレジット発行者と購入者に対するPoC(概念実証)を開始しました。両社は本協業を通じて脱炭素社会の実現と森林価値の最大化を目指します。

背景・経緯

2050年カーボンニュートラルに向けて産官学が一体となってGXリーグ※5の活動を開始するなどCO2排出量の削減と併せて、カーボン・クレジットによるオフセットの重要性が高まっています。2022年8月にはJ-クレジット制度が改正され伐採後の植林で新たにクレジットの認証が受けやすくなるなど、森林由来カーボン・クレジットの発行量増大が期待されます。
一方、国内の森林由来カーボン・クレジットの発行量と活用量は再エネや省エネ由来のクレジットと比較し少量で、森林由来カーボン・クレジットの創出・流通を活性化するためにはクレジット発行者、審査機関、クレジット購入者の3者が抱える課題の解決が重要です。

抱える課題
クレジット発行者
  • J-クレジット制度の理解が困難でクレジット発行にかかる申請手続きが煩雑
  • 長期にわたる適切なプロジェクトの管理・報告が大きな負担
  • クレジット購入者と直接的な繋がりがなく、販売先を探すことが困難
審査機関
  • 一部の様式の定まっていない書類を含む審査業務が煩雑
クレジット購入者
  • 購入したいクレジット(地域や量など)が容易に見つからない
  • 発行者と相対取引のため適正価格が分からず、購入手続きが難航する場合がある
  • 購入したカーボン・クレジットの対象森林が、クレジット発行後も適切に管理されているか(トレーサビリティ)が不明瞭

本協業の概要

森林価値創造プラットフォームの情報を活用し森林由来のカーボン・クレジット創出・流通を支援することでクレジット発行者・購入者・審査機関、それぞれの課題を解決します。

提供するサービス

  • 地図情報や画像を含めた森林管理プロジェクト(森林経営、植林、再造林活動)情報の管理:①②③④
  • 森林所有者や林業事業体に対するクレジット創出支援:①
  • クレジットの認証や発行後のモニタリングに必要な書類の一覧性向上による審査業務の効率化:②
  • クレジットに関する様々なデータ公開で透明性が高い取引機会の提供:③
  • 購入者の求める森林由来カーボン・クレジットの検索性向上による、クレジット発行者と購入者のマッチング促進:③
サービスの分類 提供する価値 クレジット
発行者
審査機関 クレジット
購入者
創出支援 プロジェクト登録・モニタリングを簡易化する
審査支援 妥当性確認やモニタリング審査を効率化する
取引マッチング クレジットに関する様々な情報を公開し、
透明性の高いクレジットの流通を活性化する
活用支援 購入したクレジットを対外的なPRに活用する

※1省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用によるCO2等の排出削減量や適切な森林管理によるCO2等の吸収量をクレジットとして国が認証する制度

※2Geographic Information System。地理情報をコンピューターの地図上(デジタルマップ)に可視化して情報の関係性、パターン、傾向をわかりやすいかたちで導き出すために活用する

※3温室効果ガスを吸収することによる地球温暖化の防止効果だけでなく、土砂災害の防止・水源涵養・生物多様性の保全などを同時に果たすことができる森林由来のカーボン・クレジット

※4森林由来のクレジットに求められる要件「未来における炭素固定の維持(永続性)」が担保されたカーボン・クレジット。地図上に情報を可視化した本プラットフォームを通じて購入したカーボン・クレジットの対象森林が適切に管理されているかモニタリングし永続性を担保します

※5経済社会システム全体の変革(GX:グリーントランスフォーメーション)を牽引していくため、積極的に取り組む「企業群」が、官・学・金でGXに向けた挑戦を行うプレイヤーと共に、一体として経済社会システム全体の変革のための議論と新たな市場の創造のための実践を行う場

海外事例

森づくりに対する企業のニーズは多様化しています。近年は、事業を展開する海外の国や地域の森林への影響を緩和するために、また企業の社会的責任を果たすために、途上国での森林保全活動や植林活動を実施する企業も少なくありません。

住友林業は、国内外の森林経営で培ったノウハウを活かし、熱帯地域における荒廃地の修復、生物多様性の回復、地域社会との共生に配慮した植林・森林保全など、企業や団体へのコンサルタント事業を行っています。

野生動物保護林 修復再生事業

三井住友海上火災保険株式会社は2005年から、インドネシアのパリヤン野生動物保護林(ジョグジャカルタ特別州グヌンキドゥル県)において荒廃した森林の修復に取り組んでおり、住友林業はこのコンサルティングを行っています。

第1期の活動として2011年3月までに350haの土地に約30万本の植林を完了しました。第2期の活動として2011年4月からは、地域住民の生計向上のための農業組合の組織化と農業指導プログラムや、地元関係者と共に保護林の管理方法を検討する組織の設置、地元の学校と連携した環境教育プログラムなどを支援してきました。第3期の活動として2016年4月からは「保護林内の木の少ない場所での追加植林」と「保護林周辺での地域住民による社会林業」の支援に加え、社会林業で配布する苗づくりを行いました。現在は第4期に入り、ユネスコ世界ジオパークにも認定されているカルスト台地に生育する在来種25種類の植林技術を確立し、この事業を通じて周辺コミュニティに対して自生種の植林・育林への支援、地元小学校や養護学校の苗づくりの支援を行っています。最近では、地元の政府が行う在来種の植林に対して苗木やノウハウ提供を行っています。

また、この事業では、植林地や研修センターなどの関連施設を開放し、森林修復のノウハウや経験を積極的に公開しており、地元の小中学生や、森林、環境、教育分野などの研究をしているインドネシア国内外の学生や専門家、多くの政府関係者が訪問しています。

社会林業で配布する苗木を育成する地元の農業組合メンバー

社会林業で配布する苗木を育成する地元の農業組合メンバー

社会林業で配布する苗木を育成する地元の農業組合メンバー

地域住民へ苗木を配布する様子

「熱帯泥炭地コンサルティング」と「質の高い炭素クレジット創出」の事業化に向けて

住友林業と株式会社 IHIは、熱帯泥炭地を適切に管理するコンサルティング事業、森林や土壌における炭素蓄積量など自然資本の価値を適切に評価することによる質の高い炭素クレジット※1の創出を目指して2023年2月にNeXT FORESTを設立しました。

住友林業が国内外の森林やインドネシアでの熱帯泥炭地で培った管理技術や地上測定データと、IHIグループが長年の宇宙開発で培った人工衛星データの利用技術、気象観測・予測技術といった両社の強みを掛け合わせ、適切な熱帯泥炭地の管理技術を世界中に広く普及させるためのコンサルティング事業を開始しています。また、広大な森林が吸収する二酸化炭素量を高精度で評価し、モニタリングする手法も開発します。2023年には、熱帯泥炭地管理の初期AIモデルを開発しました。この技術の導入により、住友林業の経験豊富な技術者のみができた地下水位予測をAIで行うことが可能となります。今後このAIモデルを活用し、インドネシアなどの熱帯泥炭地において、CO2排出や森林火災の抑制に貢献していきます。
このように気候変動対策としての炭素吸収の価値だけでなく、生物多様性や水循環の保全、地域社会への貢献といった「自然資本※2」としての付加価値を加えることで、「質の高い炭素クレジット」を創出することも目指していきます。

※1取引可能な温室効果ガスの排出削減量証明。排出量を企業間や国際間で流通するときに、クレジットとして取り扱われ、その取引単位は、1t-CO2

※2例えば森林が、二酸化炭素を吸収し、水をきれいにするように、価値のあるサービスを生み出すストック(資本)としての自然

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