自然あふれる富士山2合目の「まなびの森」フォレストアークから
四季折々のようすやボランティア活動についてお伝えします。
みなさん是非「まなびの森」へ足をお運びください。
お待ちしております。
富士山「まなびの森」フォレストアーク副館長・管理人
沢田明宏
■11月管理人日記
11月にはいるとメッキリ寒くなるのが普通ですが、前半は小春日和の暖かい日が続きました。そんな中、今年最終の14校目となる「自然体験教室」を無事終えることができました。当日の午前は本降りと言う天気予報のため、「教室」を午後にずらしたことで森での活動ができました。子どもたちが森を歩きながら思い思いの落ち葉を拾い、それをフレームに挟んで日にかざすと素敵な「森のステンドグラス」が完成します。
先月ご紹介した落ち葉が甘い薫りを漂わせるカツラですが、巨木が「フォレストアーク」のすぐ近くにあることを不覚にもいままで知りませんでした。「フォレストアーク」の前に直径20㎝ほどの若いカツラがあるのですが、反対の裏側になんと直径1mを越える「カツラの親分」が生えていたのです。
森の中でひと際鮮やかに紅に染まっている一角があります。メグスリノキと言う樹で、葉は3枚の複葉なので一見分りづらいですがカエデの仲間です。メグスリノキはその名の通り日本で古くから小枝や葉を乾燥させたものを煎じた汁を眼病の洗眼に用いたことに由来します。科学的にも炎症を抑える、血行を良くするなどの薬効が認められています。メグスリノキの落葉が森の中でも一番最後の方なので、落葉シーズンの終わりを告げる樹でもあります。そして、森はウラジロモミやヒノキ、広葉樹に付いているヤドリギやツルマサキだけが青々としている冬枯れの風景となります。
小春日和の暖かさが続いたお蔭か、陽だまりにいるとこの時期には珍しいアキアカネが飛んできて作業ズボンの上に留まって動こうとしません。
そして、「フォレストアーク」の戸締りをしている夕暮れにザトウムシが餌であるイナゴを捕まえたところを見かけました。普段はゆっくりと動くザトウムシですが、イナゴを捉えているのには少し驚きました。ザトウムシは「千と千尋の神隠し」に出てくる「窯爺(かまじい)」のモデルと言われているクモに似た虫です。
寒い冬枯れとなり今年もいよいよ最後の月を迎えようとしています。
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「自然体験教室」で出来上がった「森のステンドグラス」
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丸ハート形をしたカツラの落ち葉は甘い薫りを漂わせます
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「フォレストアーク」そばのカツラの巨木
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鮮やかに紅葉したメグスリノキ
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メグスリノキの落ち葉は複葉(3枚の小葉)
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イナゴを捉えたザトウムシ
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小春日和の暖かさに誘われてきたアキアカネ
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ブナの巨木「千手観音ブナ」は葉を落とし、ツルマサキが青々と
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取りついた樹(多分イタヤカエデ)が倒木になっても力強く残っているツルマサキ
■10月管理人日記
10月になると冬の訪れを告げる雪虫がフワフワと飛び、丸いハート型をしたカツラの葉が甘いカラメルの薫りをフォレストアーク周辺に漂わせ始めます。カツラの甘い薫りは葉が緑のあいだは気まぐれに時たまですが、黄色く色づきが進むに連れて毎日のように薫るようになります。
アズマヤマアザミがかわいらしい花をつけています。山の中で作業をしていると足にチクチクと突き刺さるものがあります。アズマヤマザミの葉の鋭いトゲがズボンを通り抜けてくるのです。チョッと憎らしいアザミですが、花は大層かわいらしいです。
強い風に煽られて枝が折れたのでしょう、ウラジロモミの球果が落ちていました。持ってみるとずっしりと重いです。ウラジロモミはちょうど「まなびの森」のある標高1,000mあたりから1,700mあたりまで分布しています。「まなびの森」のウラジロモミは国有林が植林したものです。ウラジロモミの巨木は諏訪神社の「御柱」に利用されていることで有名です。
苔むした樹にヌメリスギタケが発生しています。ナメコに似た食感の美味しいキノコです。そして、地面に半分埋もれて朽ちかけたホオノキの実から黒く尖った堅い棒状のものが生えています。ホオノキの実から生えるホソツクシタケと言うキノコです。
10月後半になるとブナやイタヤカエデが黄色く、オオモミジやイロハモミジは紅く色づきます。太陽高度が低いので、斜めに射す日差しにキラキラと森が鮮やかに彩られます。
2ヶ月近く通行止めとなっていた「富士山スカイライン」が開通し、小学生が訪れ、社員ボランテイア活動もできるようになりました。
でも、季節は寒く静かな冬へと季節が移っていこうとしています。
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アズマヤマザミ(東山アザミ)の花
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ウラジロモミの球果(マツボックリ)は上向きに
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ヌメリスギタケが苔むした樹に発生
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ホオノキの朽ちかけた古い実から発生するホソツクシタケ
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緑から少しずつ紅葉が進んでいく(ブナの葉)
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朝の陽ざしに照らされた巨木ブナ
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青空にオオモミジの黄色と赤のグラデーションが映える
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葉の切れ込みが細かいコハウチワカエデは日差しに照らされてレースのように
■9月管理人日記
9月に入って気温が下がるにつれて森のあちらこちらでさまざまなキノコが生えてきます。落ち葉の上にはハタケシメジ、倒木にはヒラタケやヌメリツバタケが見られます。
ハタケシメジやヒラタケ、ヌメリツバタケはたくさん生えるので、見つけるのが楽しくなります。ハタケシメジはスーパーにも並ぶ「ブナシメジ」を大きくしたようなキノコで、味も香りも抜群です。ヒラタケも美味しいキノコですが、気をつけなければいけないのが良く似た毒キノコのツキヨタケです。ツキヨタケの名前は暗闇でボーッと光るからです。ただ、私はまだ光っている状態を見たことはありません。ツキヨタケは半分に切ると軸の付根に黒いシミがあるので、注意すれば割りと簡単に見分けることができます。
林床に青白い俯きかげんの花が咲いています。ギンリョウソウモドキ(別名 アキノギンリョウソウ)という葉緑素を持たない寄生植物です。ある種の菌根から栄養を得ているそうです。初夏に咲くのはギンリョウソウ(別名 ユウレイバナ)といい、別の種類です。
古い枕木の上に変わったキノコが生えています。まるでハリネズミが丸まっているようです。名前はヤマブシタケ、山伏がその装束の胸のところにつけている「梵天」という飾りに似ていることから付いた名前です。このヤマブシタケも最近時々スーパーの店頭に並んでいます。
さて、「まなびの森」の「主の樹(ぬしのき)」とも称せられる「長老シナノキ」の洞の中に何か白いものがたくさん見えます。何だろうと覗き込んでみるとたくさんのキノコが生えていました。ハラタケの仲間です。まさに、「木ノ子」という絵になっていました。この洞は色んな動物(例えば、タヌキやキツネ)のねぐらにも利用されているので、有機物が蓄積されているのかも知れません。その有機物をキノコが分解しているのではないかと想像されます。
古い倒木には色々なキノコが次々と発生します。その中でも色鮮やかなサーモンピンクのキノコが生えてきます。その色合いからマスタケと名前がついたサルノコシカケの仲間です。
気温が下がってきて昆虫は少なくなりましたが、大きなチョウがヒラヒラと飛んでいます。アサギマダラです。アズマヤマアザミの花にとまって一生懸命に吸蜜しているので写真に収めることができました。アサギマダラは翅を拡げると10㎝もある大きなチョウで、海を渡って遠く直線距離で1,500Kmも飛んでいくことで知られています。この写真のチョウはどうでしょうか。
夏の間のサンショウの実は濃い緑色でしたが、秋の気配が深まるにつれて色づき始め、紅葉より先に真っ赤になりました。
森の中でショッキングな光景に出遭いました。メスのシカが一頭死んでいました。原因はわかりませんでしたが、たぶん死後3~4日経っているだろうとのこと。どうすることもできずにそのまま放っておかざるを得ませんでした。2日後に再び見に行くと、シカの死骸が見当たりません。どうしたことかと、近づいてみると無数のウジが群がっていてほとんど白骨化しています。更に、2~3日経ったころには完全に白骨と化していました。自然の中で有機物が分解される速さとその強さ、生命の循環の見事さと自然の過酷さ、そしてある種の無常さを見せつけられた思いです。
「まなびの森」への唯一のアクセスである「富士山スカイライン」が大雨の影響で8月中旬以来通行止めとなっているため、いろいろなイベントが延期や中止となっています。徐々に復旧工事も進んでおり、きっともうすぐ子供たちの元気な姿と笑い声が紅葉の森に響く日が戻ってくるでしょう。
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落ち葉の上にハタケシメジが
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倒木にビッシリ生えたヌメリツバタケ
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食用キノコとしてもスーパーにも並ぶヒラタケが倒木に沢山発生
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そのヒラタケと良く間違われる毒キノコ、ツキヨタケ
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ツキヨタケは軸の付根に黒っぽいシミが識別のポイント
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秋に咲くギンリョウソウモドキ、別名アキノギンリョウソウ
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古い枕木に発生したヤマブシタケ、最近は食用キノコとしてスーパーにも並ぶことが
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「長老シナノキ」の洞になにか白いものがたくさん見えます
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中を覗き込むとハラタケの仲間がたくさん発生、まさに「木ノ子」です
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鮮やかなサーモンピンク色がひときわ目立つその名も「マスタケ(鱒茸)」
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大きなアサギマダラがアズマヤマアザミの花で吸蜜
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初夏から青い実を付けていたサンショウが鮮やかに真っ赤に色づきました