まなびの森通信

まなびの森通信

自然あふれる富士山2合目の「まなびの森」フォレストアークから
四季折々のようすやボランティア活動についてお伝えします。
みなさん是非「まなびの森」へ足をお運びください。
お待ちしております。
富士山「まなびの森」フォレストアーク副館長・管理人
沢田明宏

【第194回】季節は秋の気配がすこしずつ

2021年 8月31日

■8月管理人日記

 今年はモリアオガエルが泡に包まれた卵塊を産む梅雨に大雨が降ることが多く、「フォレストアーク」の周囲では産み付けられた卵塊が雨に打たれて水面に叩き落とされることが続いていました。孵化するまでは水が苦手なモリアオガエルなので、コケの上にオタマジャクシから育った1㎝ほどのモリアオガエルの赤ちゃんを見つけた時はとても嬉しく思いました。同時に3匹の赤ちゃんを見かけました。
 オトコエシ(男郎花)と言う花をご存知でしょうか。秋の七草のひとつオミナエシ(女郎花)の親戚にあたる植物で、オミナエシより茎がシッカリして逞しい姿を「男」に譬えたのが名前の由来だと言われています。そのオトコエシの花の蜜を吸いにアブやハチに交じってカメムシがしきりに訪れています。
 森の落ち葉の中に細長いマッチ棒か線香花火のようなものをときどき見かけます。掘り出してみると、カメムシの死骸があります。いろいろな虫などから発生する冬虫夏草の仲間で、これはカメムシタケです。昔の人は虫からキノコが生えている姿を不思議がり、冬は虫に、夏は草になっていると「冬虫夏草」の呼び名となったそうです。冬虫夏草はその奇妙な姿もあって漢方薬としても重宝されてきました。
 森の中で枯れ葉がガサゴソと音を立てています。ヘビかな、トカゲかな、とよく見るとヒキガエルがいました。冒頭で紹介したモリアオガエルもそうですが、ヒキガエルも水場がないと命を継いでいけません。川も池もない富士山でほんのわずかな水溜りなどを利用して命を繋いでいるかと思うとなんともけなげに思えます。
 去年、富士山の周りでもナラ枯れでミズナラなどが沢山枯れました。「まなびの森」もその例外ではなく10本ほどのミズナラが立ち枯れとなりました。ナラ枯れは通称「カシナガ」と呼ばれるカシノナガキクイムシが群がり樹を食い荒らすことで起きます。今年、そのナラ枯れの根元に色鮮やかな朱色をしたカエンタケ(火炎茸)が発生しています。燃え上がる炎のような、宝石サンゴのような形をしたキノコです。カエンタケは致死量がわずかに生重量3gと言われる猛毒のキノコで、日本でも死亡例があります。さらに、カエンタケは素手で触るだけでも皮膚が爛れることがあるそうですので、「うわぁ、きれいなキノコだ」と触ったりしないように気を付けてください。「色鮮やかなキノコは毒、縦に裂けるキノコは食べても大丈夫」と言うキノコの間違った見分け方(迷信)がありますが、カエンタケはその中の大きな例外です。
 一方で色鮮やかな食菌があります。タマゴタケです。毒キノコで有名なベニテングタケやテングタケの仲間ですが、タマゴタケはヨーロッパではその美味しさから「王様のキノコ」とも呼ばれています。
 そして、日本の有名食菌シイタケを森で見つけました。スーパーでも沢山売っているシイタケですが、森の中では見かけることはほとんどありません。シイタケはもともと熱帯高地が原産地と言う説があります。シイタケの胞子が台風で運ばれてきて日本でも自生するようになったと言うのです。その美味しさから昔からなんとか沢山収穫できるようにと工夫を重ね、木にナタで傷を付けてシイタケが生えやすい場を整えたことから始まり、榾木(ほだぎ)を使った人工栽培に発展し、さらに最近ではオガ屑を固めた菌床栽培に移ってきています。
 暑かった夏も8月の終わりが近づいてくると里では稲穂が色づき首を垂れはじめますが、山ではススキが穂を伸ばしていきます。葉先が少しだけ赤や黄色に色づいたモミジの葉が地面に落ちています。秋はもうそこまで来ているようです。

  • モリアオガエルの赤ちゃん

  • 秋の七草のひとつ、オミナエシの仲間のオトコエシ

  • オトコエシの花蜜を吸いにやってきたカメムシ

  • マッチ棒か線香花火のように見えるカメムシタケ

  • 掘り出してみるとカメムシの死骸から発生しているのがわかります

  • 森の中で出会ったヒキガエル

  • 猛毒なカエンタケ まるで宝石サンゴのような美しさ、でも触らないで!

  • 色鮮やかなキノコは毒キノコ、それは真っ赤な大ウソで とても美味しいタマゴタケ

  • 森で見つけた天然のシイタケ

  • 紅葉のはじまり 少し色づいたヒナウチワカエデの葉

【第193回】梅雨が明けて、本格的な夏がおとずれました

2021年 7月30日

■7月管理人日記

 雷雨をともなう大雨のあと梅雨は一気に明け、夏の青空となりました。
 晴れた日にはカナカナカナと涼し気にヒグラシが鳴きます。森の中でその鳴き声に出遭うと、まるでヒグラシのシャワーを浴びているような心地になりとても癒されます。ヒグラシはその名前から夕方に鳴くように思えますが、実は朝からカナカナと鳴いています。
 森の中、赤銅色の幹をもつ樹の周りに沢山の白い花が落ちています。ヒメシャラの樹です。ツバキ仲間で花は2㎝ほどと小さいですが、一重のツバキによく似ています。ポロッと花の形のまま落ちるところもツバキそのものです。高い枝先につく花を写真に撮ることはかなり難しいので、落ちてきた花を楽しむしかありません。
 梅雨明け前後の大雨のせいもあり、キヨスミウツボやキバナノショウキランの花を今年は見逃してしまいました。一方、ツチアケビは今年も沢山の花を咲かせました。先月ご紹介した「森の中の茶色いアスパラガス」です。このツチアケビは花を見るとランの仲間だとわかりますが、自分では光合成を一切せずナラタケから栄養をもらって生きており、ナラタケが正に生命線となっています。ツチアケビは秋に赤く細長いソーセージのような大きな実を付け、その姿がアケビに似ていることから付いた名前です。
 古い倒木の上に白い塊やオレンジ色の塊が見られます。変形菌や粘菌と呼ばれるものです。変形菌の仲間はアメーバのように動きまわりながらエサとなるバクテリアなどを食べて生長し、それが変形体と言う一塊になりながら最後は小さなキノコのような子実体を作ります。実に不思議な生き物で、日本には500種くらいあるそうです。
 森の中に落ちている枯れ枝には可愛らしい色鮮やかなキノコが生えています。シロキツネノサカズキと言うチャワンタケの仲間です。小さな白い柄のある朱色のコップ状のキノコです。
 サンショウの実が少しずつ大きくなってきました。サンショウの葉や実の香りは動けない植物たちが虫や動物たち外敵から身を守る一つの方法です。私たち日本人はその香りをタケノコやウナギの薬味として使っています。
 バラの仲間やタラノキのトゲも同じく外敵から身を守る方法です。そのトゲトゲしたタラノキの直径2㎝ほどの幹がポッキリと折れています。それほど丈夫な幹ではありませんが、どうしたのでしょうか。
どうもシカがタラノキの葉をムシャムシャと食べるためにグイグイ引っ張ったせいで折れたのでしょう。春の山菜「タラの芽」として珍重されるくらいですから、シカにとっても美味しいエサなのでしょう。トゲは外敵に対して万全ではなかった、ということでしょうか。
しかし、折れても樹皮で繋がっているので下向きの枝先からは新しい芽が伸びてきています。タラノキの生命力の強さをマザマザと見せられた気がします。

  • 赤銅色の幹をもつヒメシャラの周りに沢山の白い落ち花が落ちています

  • ヒメシャラのアップ、2㎝ほどですがツバキそっくりです

  • ツチアケビの花、高さ50~60㎝にもなります

  • ツチアケビのアップ、ランの仲間とわかる花です

  • タマツノホコリと思われる白い変形菌

  • こちらはススホコリと思われるオレンジ色の変形菌

  • 枯れ枝に発生したチャワンタケの仲間、シロキツネノサカズキ

  • サンショウの若い実、表面に沢山のポツポツがありミカンの仲間であるとわかります

  • ポキッと折れたタラノキ

  • 折れた枝先から再び芽を伸ばし始めたタラノキ

【第192回】深い緑の森の中で、

2021年 6月30日

■6月管理人日記

 束の間の梅雨の晴れ間にホオノキやハンショウヅル、サンショウバラが例年通り鮮やかに花を咲かせています。
 ホオノキは花の直径が30㎝にもなる大きな白い花で、辺りに濃厚な薫りを振りまいています。例年、背の高いホオノキの上の方に花を咲かせますが、今年はなぜか低い位置に咲いたものを何度か見かけました。ハンショウヅルはツル性の木で、下向きに咲くつり鐘形の紅紫色の花を「半鐘」に譬えた名前です。花の形は全く違いますが、5~6月に咲く園芸品種のクレマチスやテッセンと同じ仲間です。サンショウバラは大きなピンク色の一重の花を沢山つけ、朝からマルハナバチなどがたくさん集まってきて吸蜜するので辺りがブンブン、ブーンという羽音で賑やかです。
 晴れた日には深い緑の森の中でエゾハルゼミが鳴きはじめ、巣立ちを終えたばかりのシジュウカラやヤマガラのヒナが親鳥に餌をねだる少し幼い啼き声も聞かれます。
 湿気を帯びた森の中では、古い倒木に毎年のようにオレンジ色の色鮮やかなマスタケが生えてきます。ある日気が付くと倒木にオレンジ色の塊がくっついているので、遠目にも良くわかります。また、別の倒木にはヒラタケも生えてきます。
 ヒメシャラの花も咲きはじめましたが、樹のてっぺんに咲くので地面に落ちてきた花弁でしかわかりません。その中でも二廻りも大きな花があります。こちらも5m以上の高さに咲くので落ち花しか写真に撮れません。ヒコサンヒメシャラです。幹に黒い縞模様の線が入っていることで「ヒコサン」だとわかります。
 森の中に茶色いアスパラガスのようなものが生えています。ツチアケビの花芽です。来月にはその花をご紹介できるでしょう。
 スイカズラとウツギが咲くころには6月も終わりに近づいています。スイカズラは花の根元に蜜が沢山あり、吸うと甘いことから付いた名前と言う説もあります。スイカズラは咲きはじめは白い花ですが、日にちが経つとだんだん黄色っぽくなってきます。そのため、「金銀花」と言う別名があります。ウツギは林縁に沢山生えており、近くを歩くだけでとても良い薫りがしています。
 木の杭に小さなハチが自分の尻尾を差し込んでいます。オナガバチが杭の中にいる虫、恐らくカミキリムシの幼虫に卵を産み付けているのだそうです。杭の中にいる虫の場所を触角で感知するのでしょうが、素晴らしい感知能力ではありませんか。自然の中にはまだまだ不思議がいっぱいあります。

  • 30㎝以上ある大きな花を咲かせるホオノキはモクレンの仲間です

  • ハンショウヅルの赤紫色の花

  • マルハナバチが吸密しているサンショウバラ

  • 毎年見かけるオレンジ色が目を引くマスタケ

  • 古い倒木に沢山のヒラタケが発生

  • ヒメシャラより二廻り大きなヒコサンヒメシャラの花

  • ヒコサンヒメシャラの幹には黒っぽい縞模様がある

  • 森の中に茶色いアスパラガス? ツチアケビです

  • 咲きはじめは白いが段々黄色くなるスイカズラの花

  • スイカズラのアップ画像

  • ウツギが満開に

  • オナガバチの仲間が丸太杭にいる虫に産卵している

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