まなびの森通信

まなびの森通信

自然あふれる富士山2合目の「まなびの森」フォレストアークから
四季折々のようすやボランティア活動についてお伝えします。
みなさん是非「まなびの森」へ足をお運びください。
お待ちしております。
富士山「まなびの森」フォレストアーク副館長・管理人
沢田明宏

【第184回】冬の始まりがやって来た...

2020年10月31日

■10月管理人日記

 例年より早く9月末に富士山の初冠雪が観測され、10月に入ると秋が一気に訪れ、ストーブが欲しくなるほどの冷え込む日もやって来ました。昨年は11月に入ってから見られた通称、雪虫(ワタアブラムシの仲間)が10月になったとたんフワフワと飛び始め、冬の訪れを告げています。
 寒い秋ですが、森の中ではいろいろ秋の草花が美しく咲き誇っています。
 アズマレイジンソウ、アケボノソウ、アカネ、イヌヤマハッカ、ナギナタコウジュ、などなど。
 アズマレイジンソウは毒草として有名なトリカブトに似たキンポウゲ科の植物ですが、その名の通り、どこか気品のある姿です。
 アケボノソウはちょっと不思議な花です。ふつうは星形に5裂ですが、同じ株に4裂のものもよく見られます。また、花弁の真ん中あたりに黄緑色の点が2つずつありますが、これは蜜腺です。蜜で虫を呼び寄せて、花粉の媒介をさせています。蜜腺はふつう花の奥の方、花弁の付け根にできるのですが、アケボノソウは少し変わっています。
 アカネは、額田王の「あかねさす 紫野ゆき 点野ゆき 野守は見ずや 君が袖振る」にも歌われている、昔は根から赤い染料を取った植物です。とても小さな花で、見落としてしまいそうです。
 地面には大きな株になるハタケシメジが発生し、昨年の台風で倒れた太いイタヤカエデからは色鮮やかなマスタケが生えてきました。軸に触れると血潮のように赤い汁が出てくるチシオタケも見られます。
 古い倒木から今年もツキヨタケが沢山発生しました。見た目はヒラタケやシイタケに似ていますが、ツキヨタケは毒キノコです。軸を縦に割ると黒いシミがあるので、見分けは比較的簡単です。暗いところではボゥーっと光るそうですが、残念ながら私はまだ見たことがありません。
そして、地面に落ちた枯れ枝から黒い髪の毛のようなものが出ています。「ヤマンバノカミノケ(山姥の髪の毛)」と称される根状菌糸束です。特定のキノコの種類名ではありません。名付け親は変形菌(粘菌)の研究で有名な南方熊楠先生です。ホウライタケの仲間やナラタケの仲間などがこう言った根状菌糸束を形成するそうで、乾燥や他の微生物の攻撃に弱い菌糸が菌糸束と言う分厚い細胞壁をもつ組織となることで強くなるそうです。
 秋が深まると共にケヤキやイタヤカエデの黄色、ハウチワカエデやミズキ、ヒメシャラの赤と色鮮やかに紅葉が進んでいきます。
 自然体験教室や社員ボランテイア活動などの大きな行事も今月で終了し、「まなびの森」は少しずつ冬へと季節が移っていこうとしています。

  • アキノレイジンソウと優雅で高貴な名前がついています

  • アケボノソウは花弁の真ん中あたりに蜜腺がある ハナアブが吸蜜しています

  • 小さな目立たない白い花をつけたアカネ

  • 大きな株に生長するハタケシメジ

  • 去年の台風で倒れたイタヤカエデから立派なマスタケが発生

  • 姿形がかわいらしいチシオタケは軸を触ると赤い汁が滲んでくる

  • ヒラタケやシイタケに似ている毒キノコ:ツキヨタケ

  • ブナの枯れ枝などから黒い髪の毛のようなヤマンバノカミノケが発生

  • 赤く色づいたサンショウの実

  • 秋の深まりと共に鮮やかにケヤキやヒメシャラが紅葉

  • 富士山と紅葉(近くの西臼塚駐車場にて)

【第183回】秋の気配が日に日に深く...

2020年 9月30日

■9月管理人日記

 日本列島の各地に記録的な暑さをもたらした8月が終わり、9月に入ると「まなびの森」では日に日に秋が深まっていくのが感じられます。日も短くなりました。
 コロナ禍で延期されていた地元 富士宮の小学生対象の環境学習プロジェクトである自然体験教室がコロナ感染予防のための新しい生活様式に配慮して始まり、「まなびの森」に子供たちの元気な声が聞かれるようになりました。子どもたちの笑い声やはしゃぐ声を耳にしているとこちらまで元気を分けてもらえるような気分になります。
 朝日が燦々と射す秋空のある日、私の車のフロントガラスの辺りをつがいになったアキアカネが飛んでいました。そして、ガラスの表面にツンッツンッと産卵するような行動をとっていました。不思議に思って近づいてみると、ガラス面に点々と薄黄色のアキアカネの卵があるではありませんか。朝日に照らされてキラキラとガラスが光っていたので、トンボ夫婦は水面と勘違いしたのでしょう。その産み落とされた卵はすぐにカラカラに乾燥してしまい、なんとも哀れな勘違いとなってしまいました。
 9月は大学生による活動もありました。筑波大や静岡大学の有志による植樹エリアの樹木調査や、東京農工大学による長年続けている植生調査も行われました。
 森の中ではかわいらしい秋の草花が見られます。ピンク色でユニークな形をしたツリフネソウは同じ属のホウセンカに似た花です。種が熟すと弾けて種を飛ばすのも一緒です。また、低木などに巻き付いて釣り鐘型の花をつけるのはキキョウ科のツルニンジンです。ニンジンの名の通り、オタネニンジン、所謂「朝鮮人参」のような根を持つこの植物は韓国では「トドック」と呼ばれる山菜として重宝され、根をキムチに入れたり、揚げ物や和え物にするそうです。釣り鐘型の花の中を覗くと、きれいな星形の模様が見られます。
 目を地面に移してみると、白い埃の塊がみられ、それを掘り起こしてみるとガの蛹が出てきました。冬虫夏草のハナサナギタケの仲間です。また、苔むした倒木にたくさん栽培キノコとしても有名なヒラタケが発生しています。
 紅葉はもう少し先ですが、日に日に秋が深まっていく感じがします。

  • 小学生対象の環境学習プロジェクトが始まる

  • 水面と勘違いしてフロントガラスに産卵するアキアカネ夫婦

  • 筑波大生による樹木調査の様子

  • 林内のところどころで見られるツリフネソウのかわいらしい花

  • 釣り鐘型の面白い花をつけるツルニンジン

  • ツルニンジンの花の中にはきれいな星形模様があります

  • 土の中のガの蛹から発生した冬虫夏草の1種:ハナサナギタケの仲間

  • 栽培キノコとしても有名なヒラタケが倒木に沢山発生

【第182回】「まなびの森」は夏真っ盛りから秋の気配がすこしずつ

2020年 8月31日

■8月管理人日記

 8月1日、やっと長い梅雨が明け、「まなびの森」も一気に夏真っ盛りとなりました。今年の梅雨は長雨と大雨のために「まなびの森」の気象観測データによれば7月1ヶ月で1,160mmと昨年の約2倍の降水量がありました。
 本格的な夏の訪れと共に、不思議と見た目元気をなくしていく植物があります。代表的なものに、ウバユリとオニシバリがあります。
 ウバユリは盛夏に薄黄緑色の花を咲かせますが、花が咲く時期になると葉が萎れて枯れていきます。花の時期に「葉(歯)がない」ことから「姥(うば)百合(ゆり)」と言う名前がついています。
 もう一つのオニシバリはジンチョウゲ科の低木です。こちらは夏落葉樹と言って、夏に落葉します。9~10月ごろに新芽が芽吹き、そのまま翌年の夏前まで青々としています。
 落葉広葉樹の森は夏の間は林床が暗く、背の低い植物にとっては光合成をするのに充分な太陽光を得られないので、オニシバリは「夏休みを取るんだぁ!」と葉を落としている、と言うわけです。
 ミヤマカラスアゲハやモンキアゲハが素早く飛び交い、そして強い甘い薫りを放っているクサギの花などで蜜を吸っています。上がり過ぎた体温を下げるために水溜まりなどで水を吸っている姿もよく見かけます。
 8月半ばに昆虫の専門家と地元の学生合計10名による昆虫調査が2日間に亘って行われました。日中の任意採集と夜間の光誘引(ライトトラップ)、エサ誘引(ベイトトラップ)でそれぞれの専門分野の昆虫を集めていくわけです。昨年2019年から3ヶ年計画での調査となっています。その中でも、夜間のライトトラップに集まる沢山の昆虫はここ「まなびの森」の豊かな自然の一角を目の当たりにさせてくれる場面です。 
 山歩きの途中、ブナの幹に古代文字が出現したか、と思ったら地衣類の一種でモジゴケ(文字苔)というものでした。その名の通り、奇妙な古代文字か梵字のように見えます。地衣類は菌類と藻類が共生している生物群で、共生していることで極地など過酷な環境でも生きていける生物です。有名なものでは、梅の木などに生えるウメノキゴケや樹木からぶら下がるように生えるサルオガセなどがあります。
 モジゴケの「文字」のように見える部分が子器と言う胞子を作る部分で、日本には約20種のモジゴケの仲間があるそうです。
 6月の管理人日記でご紹介したモリアオガエルの泡卵塊から孵化し、オタマジャクシ時代を経て、カエルの赤ちゃんに育ったモリアオガエルをフォレストアークのそばで見つけました。まだ、オタマジャクシの頃の尻尾の痕跡がはっきり判るもので、とてもかわいらしいです。水場がとても少ない富士山でモリアオガエルが命を繋いでいるのを目の当たりにできて、とても感慨深いです。
 8月の終わりには日暮れが早くなってきて、ススキが穂を伸ばし少しずつ秋の気配が訪れています。

  • 花が咲くころに葉(歯)がないウバユリ(姥百合)

  • 別名ナツボウズとも呼ばれる夏落葉樹オニシバリ

  • 砂利の間のわずかな水を吸って体温を下げているミヤマカラスアゲハ

  • 天然林内での昆虫調査(任意採集)

  • ライトトラップ、真っ暗な森の中でそこだけ明るく色んな昆虫が集まってきます

  • ライトトラップの近影

  • ブナの幹に生えているモジゴケ(文字苔)の仲間

  • モリアオガエルの赤ちゃん、オタマ時代の尻尾の痕跡がまだあります

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